火力を抑制して原子力のみに力を入れる理由として、電力業界や政府は「石油は限られた資源であるため、いずれ枯渇する。また、CO2を排出するため地球温暖化を促す」と説明してきた。しかし、オイルメジャーが発信源である原油の確認埋蔵量情報は価格操作を目的とした演出であり、その予測を額面通りに受け取るわけにはいかない。事実、「石油は今後30年でなくなる」と喧伝された1970年代のオイルショックからすでに40年近くを経過した現在でも、世界各国で新たな油田発掘が報告されている。

火力に対する原子力の優位性を論証するためのCO2排出に関する比較も、事実に基づいているとは言い難い。東電傘下の企業に勤務するエネルギー濃縮の専門家は、「原子力は投下エネルギーの8割強が濃縮工程に偏っている。石油火力のCO2排出量が原子力より多いといっても、それは多分15~16%程度」という。「8割強」という数字には、核廃棄物の処理と保管に要するエネルギー分は含まれていない。

そもそも、原子力発電は石油に依存する技術である。原発で使う石油製品はガソリンや灯油同様、原油精製で得られる連産品の一つであって、原油から個別に取り出すことはできない。多くの製品が生産される中で、それらを一定の比率で取り出し、精製・加工して現在の石油文明が形成されている。そのため、原発の増加に応じて石油採掘を減らせば、すべての連産品も目減りすることになる。原発を推進しても、石油消費を大量に減らすことはできないのだ。このように、「原発は是が非でも必要」とする主張には、隠れた要素や意図的な誤解が多すぎる。

「原発の発電コストが安い」ことは、政府と電力会社の説明を報じてきた新聞によって“常識”化されてきた。数え上げればきりがないが、最近の紙面にもその一例がある。「どうなる 東電料金値上げ/燃料費など全面転嫁なら2割」と銘打った5月15日付毎日新聞の記事では、Q&A形式の本文でこのように解説している。

「コストの安い原発を火力に切り替えると、液化天然ガス(LNG)などの燃料費が年1兆円増える可能性がある。こうした燃料費の増加分を機械的に転嫁すると、料金が現行より16%上昇すると政府は試算している」「東電の場合、火力への切り替えによる燃料費増加分と負担金を機械的に全面転嫁すると、合計で料金が2割近く上昇し、東電管内の家庭の平均料金は月6390円(5月)から7500円程度にはね上がる計算だ。東電以外の電力会社も数%の値上げとなる」