では、相続で揉めないためにはどうすればよいのでしょうか。「公正証書遺言」はまさしく転ばぬ先の杖です。

公正証書遺言は作成の過程で公証役場が最低限の形式上のチェックをしてくれます。登記簿の記載に基づかない不動産の表示はダメ、日常会話もできなくなったおばあちゃんを無理やり連れてきたものはダメなど、そもそも遺言の内容の是非に至る前段階で躓かないためのチェックがなされます。

特に多額の資産を残す可能性があるケースでは公正証書遺言はしっかりと整えるべきです。先ほどの特別受益のほかに、民法には「寄与分」という概念もあります。たとえば、複数の相続人がいた場合、そのうちの一人が献身的な介護を行ったおかげで老人ホームに行かずに親が亡くなったとします。この際、老人ホームに入居しなかった分だけ財産が手元に多く残ることになります。この分を寄与分として介護を行った相続人が多めに相続分を得ることになるわけです。しかし、実際の現場では、特別受益と寄与分の内容が不明確なことが多く、各人が勝手なことを言い出して揉めるケースがほとんどです。

少なくとも財産が5000万円程度ある人は弁護士などに相談して公正証書遺言を作ることをお勧めします。このぐらいの中途半端な財産を残す人で揉めるケースが多いのです。1億円に近ければ最初から弁護士や税理士などが事前準備をしていることが多く、5000万円よりも少なければ大抵の場合はマイホーム一つしか実質的な遺産はなく、その帰属のみを親族間で話し合えば十分だからです。

最近流行りのエンディングノートを公正証書遺言と混同する人もいるようですが、全く別のモノとして考えたほうがいいでしょう。エンディングノートは公正証書遺言のように法的な意味がある文章をまとめたものとは明らかに違います。エンディングノートがしっかり記入されていると、亡くなった後の資産把握や関係者への連絡ノートとしての利点があります。遺族の中には、故人の預金や不動産などの財産に関する基本的なことさえ知らない場合もあります。相続を確定するためには、相続財産を特定する必要があり、不動産や銀行口座の所在を知ることが重要です。また、家族構成を知るために結婚・離婚の記録などが記入されていることが望ましいです。何回も結婚・離婚を繰り返している人の場合、戸籍を遡って相続人関係図を作る必要があります。これらのデータに基づいて、各金融機関や法務局に戸籍をかき集めて提出しなければなりません。その手がかりがエンディングノート上に残っていると非常に助かります。