範囲は拡張できる場合も
本来は自由財産ではない財産についても、申立てをすれば、裁判所が破産管財人の意見を聞いた上で、自由財産として認めてくれる場合もあります。これを「自由財産の範囲の拡張制度」といいます。具体的な例を2つご紹介します。
ひとつめは、生命保険です。加入している保険を一度解約してしまうと保険会社が再加入を認めないケースもあり、現在の保険契約を維持する必要が生じることがあります。通常は、破産者が自由財産の中から保険の解約返戻金相当額を破産財団に組み入れることによって現在の保険を維持します。自由財産で解約返戻金を買い取るというイメージです。しかし、破産者が資金を有しない場合は、この方法を採ることができません。この場合には、管財人を通じて保険契約を継続する必要性や破産者の収入状況などを裁判所に説明することで、自由財産の範囲を拡張するという方法もあります。解約返戻金が配当原資になりませんので、保険契約を維持することが可能になるわけです。
2つめは、破産をされる方が自営業者で、未回収の売掛債権が残っている場合です。破産手続開始前に発生した売掛債権は、破産財団に組み込まれて債権者へ配当されるのが原則です。しかし、自営業者の方は、その売掛金収入で生計を立てていることも多く、これがすべて配当に回されると生活できなくなるケースがあります。この場合、生活に必要不可欠な部分については、自由財産として拡張を認められることがあります。
実際に自由財産の拡張が認められるかどうかはケース・バイ・ケースですが、裁判所の判断には一定の傾向があります。
本来は自由財産ではない財産も、自由財産と合計して99万円までであれば、自由財産として認めてもらえるケースが比較的多いといえます。また、高齢や病気等で医療費が必要なケースでも、自由財産の拡張が認められやすいといえます。
会社をたたむ場合、会社の事だけを考えがちですが、破産後の当面の経営者自身の生活を考えておくことが必要です。そのためには、自由財産の制度を上手に利用できるよう、破産の申立て前に専門家に十分に事情を説明して協議したうえで対応することが重要です(「専門家」とは誰かについては、連載第6回で解説します)。
自由財産だけでは生活は長く続きません。会社をたたんでも、それまで信頼される仕事をされてきた方は、取引先から声がかかったりして、仕事を見つけています。新たなビジネスを始める方もいらっしゃいます。破産とは、命までとられるものではなく、あなたの仕事がすべて終わってしまうものでもありません。「自由財産」という仕組みは、目の前の生活を確保し、次の仕事を手に入れるためのものでもあるのです。