40代、50代で学び直しをしようと決意し、東京大学に進んだ人たち。なぜ最難関の大学を選んだのか。そこで学んだことはその後の人生にどういう影響を与えたのか。彼らを取材し、「学ぶ」ことの本質が見えてきた。
【40代後半 声優 文一入学】

勉強を始めることで、もっと勉強したくなる! 大学生活が楽しく7年かけ卒業

留学先の米国人の一言が学び直しの決め手に

「幽☆遊☆白書」「AKIRA」など数々の出演作で知られる声優の佐々木望さんが、突然「このたび東京大学法学部を卒業しました」と発表したのは、2020年3月末。合格したことも、仕事の合間を縫って通学していたことも未公表だったから、アニメファンならずとも驚きのニュースだった。

佐々木さんは、高校卒業後に広島から上京。誘われたオーディションに合格して声優デビューし、たちまち売れっ子となっていった。

東大を受験するには、いくつかきっかけがあったと言う。まず、大活躍していた30代半ばに声帯を痛めたこと。

「自己流だった発声法と演技を改めようと、一から学び直しました。レッスンを受けるだけでなく、本もたくさん読みました。声の調子が回復するにつれ、勉強すること自体が楽しくなって、もともと好きだった英語を独学し始めたんです」

英検1級を受けて合格。次いで、通訳案内士の資格を取得。さらに、「アカデミックな英語を勉強しようと思ったので、大学受験を考え始めました。英会話だったら、大学へ行かなくても自分で学べますからね」

映画の作り方を英語で学ぶ社会人向け講座などを受講するため、いくつかの大学のキャンパスへ通ったことも、きっかけのひとつとなった。

決め手は、2010年の秋にアメリカのボストンへ2週間の語学留学をしたこと。同世代のホストマザーが、数年前に仕事を辞めて大学へ通い、新たに学んだ分野に関わる仕事に就いたばかりだと話してくれたのだ。「そんなの珍しくないよ」と言われて調べたところ、日本の大学も入学に年齢制限を設けていないことがわかる。

「せっかく行くなら、最高の環境へ」と考えて東大受験を決心したのは、2011年5月だった。

「けっこうお気楽に、流れのままに生きてきて、先々の計画を立てるタイプではないんです。もしも受かったら、仕事をしながら通学することになりますが、まぁ、なんとかなるさと思っていました。声優の仕事が大好きなので、キャリアチェンジなどのために受験したのではなく、ただ大学という環境で勉強したかったんです。受験勉強自体、それまでの人生で知らなかったことをたくさん学べて、楽しかったです」

佐々木さんの受験勉強は、「東大合格体験記」を片っ端から読み込むことから始まった。手記には合格直後の気持ちの昂りがそのまま表れていて、読み物としても面白かったと言う。