最初は、前日だからとても無理だと思ったが、僕がOKすれば、モシマンズの仕入れが使えると考えた。ロンドンで有数のレストランの仕入れが適当なはずはない、いい食材を使える。
自分たちで市場に行って食材を一から探すつもりだったから、こんなありがたい話はない。だから、やることにした。
アパートメントのキッチンで試作
モシマンズはレストランだけでなく、テイクアウトやケータリングなども経営していた。だからキッチンが広い。その一角を僕らが独占できた。
しかも、豚が最高だった。純血のデュロック。このゲンコツがすごかった。肉のおいしさはまぁまぁだったが、ふだん僕が使っている豚のゲンコツよりも1.5倍は味が濃い。
鶏も新鮮だった。軟水も300ℓを頼んだら用意してくれた。もともとは、厨房付きのアパートメントを借りてもらっていたので、そこで準備をするつもりだったから、実にラッキーだった。
いきなり本番というわけにはいかないから、アパートメントのキッチンで試作をした。イギリスの豚や鶏を市場で買い漁って、まずは肉の旨みだけをみる。今度は丸鶏をさばいて、ガラだけで炊いてスープをイメージする。
ネギはポロネギしかなくて最初は戸惑ったが、それが意外においしい。ちょっとニンニクの香りがあって、九条ねぎの根元に近い味がした。貝類もいろいろ食べてみた。とにかくイギリスの食材を知ることに努めた。
VIPが激賞した「飯田商店」のラーメン
モシマンズでは大成功だった。お客さまは、ベントレー社のベントレーさん、ノーベル賞で知られるノーベルさんなど、VIPが36人だった。食事中にお客さまが僕を呼ぶ。シェフを呼べ、と。
5階にある最上階のVIPルームに何往復もした。皆さんが「アメイジング!」と、喜んでくれた。イギリスでもラーメンが愛されるということが、よくわかった。
厨房の皆さんにもラーメンを振る舞った。ゲストが食べたものと同じ醤油ラーメンを全員につくった。「気になるだろ。食べようぜ」と言って。その時間が一番よかった。彼らが一番わかってくれる。
「モシマンズの仕入れだから同じ豚だけど、俺たちがやったってこうはできない。どうやってやるんだ?」
同じ厨房で戦う料理人同士だからこそ、互いに感動できる。僕らはやっぱり厨房が一番だ。
そもそも渡航の目的だったロイヤルウィンザーカップ当日も好評だった。何人のロイヤルファミリーが食べてくれたかはわからないが、皆さん「アメイジング!」と言って、とても楽しそうだった。
競馬場には、風が吹くと火が消えてしまうような設備しかなかったから、ここで一から仕込みをしていたらどうなっていたか、考えたら背筋が寒くなった。
