トランプ米大統領による関税政策で、世界経済が混乱に陥っている。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「トランプ氏が仕掛けた貿易戦争は、世界第2位の経済大国である中国の求心力を高め、習近平が狙う『アメリカVS中国+国際社会』という構図につながりかねない」という――。
国際社会に喧嘩を売るトランプ政権
「中国が報復関税をかけたのは過ちです。アメリカが殴られれば、トランプ大統領はさらに強く殴り返します。したがって、きょうの真夜中に中国への104%の関税が発効します」
4月8日、ホワイトハウスで記者団にこう語ったのは、27歳で報道官に抜擢されたキャロライン・レビット氏だ。

ホワイトハウス報道官のキャロライン・レビット氏が、メリーランド州で開催された2025年保守政治行動会議(CPAC)で演説(写真=Gage Skidmore/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)
学生時代から反リベラル色を打ち出し、1期目のトランプ政権で報道官補佐としてメディア戦略に関わってきた彼女は、今やトランプ氏の方針をオブラートに包むことなく国際社会に発信する「首都ワシントンの顔」だ。もっと言えば、一方的な関税政策で国際社会に喧嘩を売る「ホワイトハウス」、いや「ファイトハウス」の申し子と言っていい。
しかし、レビット報道官の会見の翌日(9日)、中国への関税率は、わずか1日で104%から125%にまで引き上げられ、さらにその翌日には、「2月と3月分を加算すると145%になる」と修正された。
中国を「偉大な国家」にする愚策
日本をはじめ、トランプ氏による関税政策に報復措置を取らなかった国々への関税率は、90日間、10%に留め、対決姿勢を示した中国に対しては過去に類を見ない高関税を課したことになる。
筆者はこれまで、トランプ氏が「良くも悪くも公約を守る」という1点において、その動静を好意的に見てきたが、中国に仕掛けた貿易戦争は、「パリ協定からの離脱」や「不法移民の強制送還」といった政策とは比べようもないほどの悪手というほかない。
なぜなら、トランプ氏が仕掛けた貿易戦争は、結果的に中国の国内を引き締め、国際社会の中国への傾斜をもたらす可能性が大きいからだ。トランプ流に言えば、「Make China Great Again」につながりかねない愚策中の愚策なのだ。