※本稿は、内藤誼人『新版 世界最先端の研究が教えるすごい心理学』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
あなたはどれだけ家事をしている?
私たちは、自分がやっていることはよく覚えています。
何しろ、自分自身がやっていることなのですから。逆に他人がやっていることは、あまりよく覚えていません。
夫婦に対して、「あなたは家事全体のうち、何%くらいを自分がやっていると思いますか?」と質問すると、夫も妻も「自分がたくさんやっている」と答えるので、その数値の合計は100%を超えてしまうことが知られています。私たちは、自分がたくさんやらされていると感じやすいのです。
カナダにあるウォータールー大学のマイケル・ロスは、何十組かの夫婦に、20の活動リストを見せました。リストには、「朝食を作る」「皿を洗う」「家の掃除をする」「買い物をする」「子どもの面倒を見る」などと書かれていました。それぞれのリスト項目に対し、どれくらい自分がやっていると思うか、またパートナーはどれくらいやってくれていると思うかを推測させたのです。
その結果、20のうち16の活動で、「自分のほうがたくさんやっている」と答えることがわかりました。80%の活動で、自分がやっていることを多く見積もっているということです。この理由について、ロスは「自分がやっていることはすぐに頭に思い浮かぶからであろう」と解釈しています。
自分がやった事例についてはすぐに頭に思い浮かぶので、それだけたくさん自分がやっているのだと考えやすいのです。そして相手の事例はそんなに頭に思い浮かばないので、「自分ばかりがやっている」と感じてしまうのです。
私が自宅のトイレを使おうとすると、なぜかトイレットペーパーがなくなっていることが多いのです。そのため、私ばかりが、芯を外して新しいトイレットペーパーをセットしているような気がしていました。
「気がしていた」というのは、妻も私とまったく同じようなことを思っていたからです。私が何気なく、「トイレットペーパーの交換は、なんだか俺ばかりがやっているような気がするな」と口にしたところ、「えっ、絶対に私のほうが多いと思うけど」という返事が返ってきたのです。ようするに、お互いに「自分のほうがたくさんやらされている」と感じていたのです。
私たちは、自分ばかりがソンな目に遭っていると感じやすいものですが、それはまったくの誤解に過ぎません。現実には、ほかの人もみなさんと同じようなことをしてくれているわけで、自分では気がつかないだけです。自分ばかりが一方的にソンをしている、ということは通常ありません。