白人少女たちに囲まれて大統領令にサインするトランプ
ふと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、アメリカにとっての『ALWAYS三丁目の夕日』(2005年)だったのでは、と思う。
『ALWAYS三丁目の夕日』は昭和30年代(1958年)が舞台だ。戦後の復興を経て高度経済成長期に差しかかる日本の勢い、まだ残る古い町並みと人情、そして家族の絆を描いて大ヒットした。バブル経済の崩壊後、10年以上たっても景気回復の兆しが見えなかった公開当時の日本人の心境にフィットしたのだろう。
当時、日本はまたここからよくなっていくと多くの人は信じていた。公開されたのは、第1次安倍政権の始まる前年。当時はまさかそのまま「失われた30年」に突入していくとは思ってもいなかった。
そんなことを考えながら、金曜ロードショーでBTTFの1955年の「白人しかいないハイスクールのカフェテリア」を眺めていると、ちょうど同日のニュースで流れていた、「トランプ大統領が、100人近い白人少女たちに取り囲まれながら大統領令(トランスジェンダー女性の女子スポーツ大会への参加を禁じる内容)にサインする」場面とオーバーラップして見えた。そこにいる子どもたちの大多数が白人だった。
ほほえましげに演出されてはいるが、「有色人種がほとんどいない」という点が共通しており、現代の映画やドラマを見慣れた目には、どうしても不自然に映る場面だった。
メイク・アメリカ・グレート・アゲインを体現する映画
マーティの送り込まれた1955年「11月」は、「黒人にも市民権を」とうったえる公民権運動がまだ大きく盛り上がる前だ。第二次大戦後の富を白人たちが占有する、アメリカ保守派にとっての「古き良き時代」だったのだ。当時はまだバスの座席すら白人と黒人で分けられていた。白人に席を譲ることを拒否してローザ・パークスが逮捕されたことをきっかけに、キング牧師らが「バス・ボイコット運動」を組織的に呼びかけたのが1955年「12月」である。
1985年は、国外では日本との経済摩擦が激しくなり、国内ではアフリカ系アメリカ人が公職にも就くようになってきて「白人のアイデンティティー」が揺らいだ時代。そこから、人種差別が温存されており、黒人を安い労働力として調達できていた1955年11月へーー。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、大統領再選を果たしたトランプがうたう「Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国に:MAGA)」という懐古趣味を、くしくも40年前にすでに映像化していた映画ともいえはしないか。トランプ自身がBTTFを見ていた可能性も大いにある。当時の脚本家が、シリーズを通した悪役であるビフ・タネンのモデルとして、当時すでに実業家だったトランプの名を挙げているのだ。