※本稿は、荒木博行『裸眼思考』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
合理的な「レンズ思考」とストレートに見る「裸眼思考」
私たちは、常に合理的かつ効率的に働くために、「仮説思考」や「逆算思考」などの思考スタイルを駆使したり、これまでの経験や知識などに当てはめて判断したりしています。
言い換えれば、ノイズを排除する合理的で強力なレンズを持っていると言えるでしょう。このレンズの力によって、私たちは複雑な日常に対して余計なことを考えることもなく、シンプルに生きることができるのです。
ですが、レンズの度が強くなるほど、「今」をストレートに見ることができなくなってしまいます。ですから、時々このレンズを外して「裸眼」で物事を見る必要があります。そんな「裸眼思考」は、3つの側面から以下のように定義することができます。
2 アクティブな部位:脳だけでなく、五感を使っていること
3 意図:行動を意図するのではなく、物事を正しく理解することを意図する
目的や知識は、いずれも脳の作用によって意識することです。その作用を意図を持って弱めてみる。そして、焦って行動することから距離を置く。その代わりに、今目の前にあるものを五感のボリュームを高めて感じ取ってみることが「裸眼思考」につながります。
「仮説」を持たずにただ観察して見えてきたこと
そんな「レンズ思考」と「裸眼思考」の好例として、ハーバード・ビジネススクールの教授だったクレイトン・クリステンセン氏が好んで語る、マクドナルドのミルクシェイクの改善事例について紹介します。
マクドナルドは、非常に精度の高いマーケティング組織を抱えています。マクドナルドはそのマーケティング力を生かして、より良いシェイクをつくるために、シェイクの改善プロジェクトを立ち上げました。具体的には、数カ月にわたり顧客に詳細なヒアリングを行いました。
ヒアリングでは、ミルクシェイクを買う典型的な顧客に対して「どんな点を改善すれば、ミルクシェイクをもっと買いたくなりますか? 値段を安くすればいい? 量を多くしたほうがいい?」というような質問をしたのです。そして、その回答を踏まえて、改善を図ったのですが、残念ながら、売上にも利益にも全く効果はありませんでした。
そこで、プロジェクトに入ったクリステンセンのチームは、全く違うアプローチでこの課題に取り組みました。
それは、開店から閉店までの18時間、店頭に立って観察する、ということです。どうすれば売れるのか、という仮説を持たず、ただ観察することを心がけた結果、1つのことが見えてきました。