81歳でも現役、毎日300個以上のおにぎりを作る

弘子さんの仕事場の床には、長方形の箱が置かれている。年季の入ったその箱に、帽子とエプロンという制服を身につけた弘子さんがちょこんと乗り、飯切桶の前に立つ。炊き上がった米を飯切に移し、塩を振り、両手で米をふわっと丹念にかき混ぜる。片手にふわりと包むように米を乗せ、具を乗せ、その上に米をかぶせ、計量して、海苔をつけて三角に包んで台に置く。その一連のスピーディーな作業に、一瞬で目が奪われる。鮮やかで無駄のない、まさに職人技だ。

米を包む手
撮影=市来朋久

これは、いつから手についた技なのか。

「いつというか、自然とね。その流れでの、今ですね。おにぎりは、握らなければいいんですよ。握らないで、米を掌に入れて、具を入れて、その上にふわっと米をかぶせて、海苔を巻いた時だけ、ちょっと力を入れる。握らなければ、美味しいおにぎりになるんです」

おにぎりは、握らなければ美味しい。まさに、これぞ名言。握るものだとこれまで疑うことなく思い込んでいた身にとって衝撃で、目からうろこの思いだった。

起床は朝5時、背丈は20センチ近く縮んだが、病気知らず

毎朝、5時か5時半に起き、2階の住まいから6時に店へ降りてくる。ここから7時半の開店まで、弘子さんのおにぎり作り“第1ラウンド”が始まる。朝ごはんは食べない。昼も、そして夜も、さほど食べない。何かをつまむ程度でいい。健太さんがこう教えてくれた。

「食事を食べないもんだから、どんどん小さくなっちゃって。15センチぐらい、背が小さくなっているし、骨も丸まってきている」

弘子さんが笑ってうなづく。

「この台に乗っても、もう、お店は見えないの。前は148センチあったのに、この前、測ったら、129センチになってたね」

それはもう、15センチどころではない。ただし、病気はしたことがない。

「ここにきて腰が痛くなって、コルセットするようになったり、白内障になって病院に行くようになったりしたけど、病気はしたことがなくて、内臓はどこも悪くないの」

手島弘子さん
撮影=市来朋久