税収減とは結果的に「手取り増」である
「103万円の壁」を引き上げる方針が進む中、財源不足や地方自治体からの懸念が指摘されていました。しかし、経済効果の試算によれば、壁の撤廃はむしろ、プラスの効果をもたらす可能性が高いとされています。
第一生命経済研究所の永濱利廣氏によると、インフレ率1%ごとに11兆~12兆円規模の財源を捻出できる可能性があるとのことです。また、国民民主党の主張する控除額178万円への引き上げに伴う年7兆6000億円の税収減も、持続的なインフレ率0.6~0.7%で十分補えると示されています。
消費が増えれば、消費税をもとに税収も増え、プライマリーバランス(歳入と歳出の差)の黒字化も見込まれます。さらに、税収減とは結果的に「手取り増」につながること、これは最も重視すべきポイントです。地域間の格差解消を進めながら、この政策は十分に進めていく価値があると私は考えています。
実際の負担感が強くなるのは「130万円の壁」
ただし、「103万円の壁」が178万円に引き上げられたとしても、働き控えが完全に解消されるわけではありません。
その背景には、年収「130万円の壁」が存在します。この壁は、扶養を外れて基礎年金や健康保険料の支払い義務が発生する年収ラインです。
東京大学社会科学研究所の近藤絢子氏によると、実際の負担感が強くなるのは、この「130万円の壁」のほうだということです。年収130万円を超えると負担が急増し、そこに働き控えが生じているのを指摘されています(*1)。
さらに、大和総研の是枝俊悟氏は、配偶者手当が配偶者控除と連動しているため、「103万円を超えると手当が削減される」という仕組みも、働き控えの要因となっていると述べています。
しかも大企業でのパート労働者には、「106万円の壁」もあります。これは社会保険料が発生する基準ですが、最近の改正で撤廃され、多くの従業員が社会保険に加入する方向に向かっています。しかし、この社会保険料は労使折半のため、企業側にも大きな負担がかかり、一部の労働経済学の研究(*2)では結果的に非正規雇用化が進む懸念が示されています。
*1 「年収の壁」問題の視点 「103万円の壁」過剰に意識
*2 社会保険料負担と雇用構造:企業属性に着目したマイクロデータ分析