産業補助金でEVメーカーが多数乱立

近年、中国の自動車市場では値下げ競争が激化している。特に、EV、PHVなど新エネルギー車(新エネ車)の価格を引き下げて、シェアの拡大を目指す企業は増加傾向だ。その背景には中国政府の産業政策がある。

リーマンショック後、中国政府は4兆元(当時の為替レートで7兆円程度)の経済対策を実施した。EVの振興策もその中に含まれた。BYDなどの有力メーカーは、政府の産業補助金などを受けEVの生産能力を高めていった。

2015年、中国政府は、産業育成政策である“中国製造2025”を開始した。大気汚染対策や電動車関連企業の集積をめざし、補助金政策や工場用地の供与を進めた。政府の支援で、BYD、理想汽車、上汽通用五菱汽車(ウーリン)、上海蔚来汽車(NIO)、浙江吉利控股集団(ジーリー)などで設備投資は加速した。

産業補助金などを目当てに、EV分野に新規参入する企業は急速に増えた。2024年から政府は、第一汽車、東風汽車、長安汽車の国有大手自動車3社の新エネ車事業も支援し始めた。車載用バッテリー関連分野では、CATLなどが短期間で世界トップシェアを獲得した。関連素材の分野でも、中国企業の国際競争力は急上昇した。

「需要と供給のバランス」の概念がない?

鉄鋼や太陽光パネルなどでは、明らかに過剰生産問題が鮮明化している。基本的に中国の企業には、需要に合わせて生産を調整するという概念がないように見える。EVの生産も過剰になり、野ざらしに放置されるEV在庫は増えた(EVの墓場として報道されている)。供給が需要を上回ると、価格は下落する。2017年をピークに需要が減少したエンジン車も含め、過剰になった安価な中国製自動車はロシアなど新興国に流入した。

まるで墓場と化した、地面を埋めつくすほど大量に放置された自動車
写真=iStock.com/shisheng ling
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足許、中国では、不動産バブル崩壊の後始末の遅れなどでデフレ圧力が高まっている。消費者は、先々の値下がりを予想し支出を先送りする。企業はシェアを維持、拡大するために追加的な値下げを実施する。現在の市場環境で利益を確保できる中国EV企業は、BYDと理想汽車の2社との見方もある。

2024年に入って、EVに加えPHVを重視する中国企業も増えた。EVの走行距離の短さ、充電インフラの不足などへの対応があるとみられる。特に、BYDは、PHV分野でも生産能力を引き上げシェアを拡大するため、さらなる値下げを企図しているようだ。