朝田が“果実”と表現した収益の増加は、事業投融資にもよい影響を及ぼしている。投融資金額の計画は、11年3月期から2年間の間で7500億円から9000億円程度に上方修正された。
財務畑出身の朝田だけにその関心事は、経営戦略や決算の数字と思いきや、インタビューの中で一番身を乗り出して熱弁を振るったのは、社員の話だった。
「MBAを取るのも大事、海外に留学して人脈をつくるのも大事です。だけど、やっぱり現場が一番なんですよ、丸紅は」
早口な朝田が、一層テンポを上げて、嬉しそうに次の2つの事例をあげた。
1つは、トルコを欧州とアジアに分かつボスポラス海峡で行われている地下トンネルの建設に派遣されている女子社員の話だ。かつて彼女は、入社半年にしてバングラディシュの交通プロジェクトに派遣されてもいた。もう1つは、アフリカのアンゴラにあるプロジェクトである。同国では、長年続いた内戦が02年に終結し、05年に日本大使館ができたばかり。現在、丸紅の産業機械部門の社員が10人駐在しているが、その中の1人は入社間もない新入社員だ。
他の商社であれば、研修の身のような社員だが、丸紅では本人の希望があれば、海外の現場を踏ませる気風があって、その気風が丸紅を支えているのだ。
「こうした劣悪な環境でも、現場を踏んだ経験を持つ社員が、丸紅の財産です。経営を支えているのは、現場なんです」