残念ながら、効率よく単語を覚える方法を、私は知らない。むしろ私は記憶力が非常に悪いため、単語学習にとても苦労してきた。苦労のなかで編み出したのが、「忘れて当たり前」という姿勢だった。凡人が1日に10語の英単語を完璧に覚えるこは難しい。それなら100語を学び、99語は忘れても、1語だけはなんとか覚えようと心がける。

それはヒゲクジラの補食方法に似ている。クジラは大きく2種類に分けられ、このうちハクジラは大きな獲物を1匹ずつ狙う。一方、ヒゲクジラは大量の海水を飲み込み、吐き出す過程で、「ヒゲ」をフィルターにしてエサを濾し取る。

忘れることを恐れずに、まずは大量の単語に接する。その繰り返しの中で、絶対に忘れない単語がひとつふたつと増やせればいい。ここで気をつけたいのは、「忘れて当たり前」ではあるが、「覚える努力は怠らない」ということである。

大量の単語に接していれば、自分の関心に引っかかる単語は必ず見つかる。好きなもの、興味深いジャンルを手がかりにすると、楽しくなる。

類推力が増す語源学習「前に座る人」=「大統領」

私は34歳で仕事を辞め、7年間、英語学習だけに打ち込む「引きこもり留学」をしていた。その頃、野茂英雄投手がメジャーリーグに挑戦しており、野球が好きな私は、野茂の記事が載っているアメリカの雑誌を取り寄せて、貪り読んだ。わからない単語が出てくるたびに、マーカーを引いて調べた。そのときは、「野茂は海を越えて、どう評価されているんだろう?」という点に関心があり、勉強しているという意識はほとんどなかった。

「calisthenics(柔軟体操)」という見慣れない単語を覚えたのもそのときだ。「野茂が柔らかいピッチングをするのは柔軟体操をやっているからだ」という1文があり、強く印象に残った。そうやって少しずつ語彙が増えていった。