1万円を渡して、使い道を記録してもらう
それから、お金の管理の仕方についても教えています。
毎週1万円の生活費を渡して、何にお金を使ったのかを事細かに家計簿に記録させるのです。私がヤクザの頃は、いつ捕まるか分からなかったがゆえ、違法薬物や夜遊びに持ち金を使い果たしていたので、貯蓄がまったくできていませんでした。同様に、元受刑者や依存症の方も、散財癖がついている人が多い。一人暮らしの初期投資を貯めるためにも、節制する癖をつけてもらいます。
ほかにも、病気や精神疾患など就労が難しい人以外には、生活保護に頼らずできるだけ自分でお金を稼ぐように指導しています。
ほかの自立支援施設では、生活保護を受給させるところもありますが、個人的には社会復帰を先延ばしにしてしまうことを懸念しています。それに住み込みが終わった後も、働かずに暇な時間が増えると、どうしても薬物やギャンブルなど、あらゆる誘惑がちらついてしまうので、せっかく再起しても元通りに戻ってしまうと考えています。
こうして、規律のある環境で過ごしてもらい、職や住処を見つけたら晴れて卒業してもらいます。
それでも社会復帰できるのは2割程度
ただ、残念ながら、ここまでしても社会復帰にいたるのは約2割です。教会に来たばかりはみんな、改心したい意思が強いのですが、どうしても1~2カ月経つと、支援してもらうことに慣れて気が緩んでしまう。
最初は感謝の気持ちがあったとしても、支援されていることが「当たり前」になってしまうのです。あるいは、自分で一人暮らしを始めると、周りの監視の目がなくなるので、誘惑に負けて道を踏み外してしまいがちです。
自立支援を受けた人からしても、せっかく教会で面倒をみてもらったのに、再び堕落した姿を見せるのは抵抗があるのでしょう。自分がしてきたことを後ろめたく感じる引け目からも、支援を求める人はSOSを発信しづらいのです。
スリップ(薬物の再使用)した人のケースは非常にわかりやすく、私からの電話を取らなくなります。そして、自立支援から卒業した後に音信不通となり、気づけばまた逮捕されているケースも散見されます。
また、救いを求めてきたうえで一度教会を去った人を、教会の外まで追いかけることは基本的にしていません。たとえば、違法薬物の使用や所持などで逮捕された元受刑者の家に行った際に、相手が部屋の中で薬物を使用していたとします。そうした状況に出くわした場合、覚醒剤取締法違反で逮捕されたことがある私は、警察から共犯者だと見なされるおそれがあります。
前科者として薬物依存症の方を支援するということは、このようなリスクを負うことになるため、私も細心の注意を払って支援活動に取り組んでいます。
では、更生できる人とできない人には、どのような違いがあるのか。完全に立ち直るためには、どのようなことが必要なのでしょうか。
私が考えるに、まず「心をオープンにできるか」どうかが、更生の大きな分岐点となります。
先ほど、教会を訪れる人にとって、自分が堕落した姿を見せるのは抵抗感があるという話をしました。同様に、犯罪歴があること、虐待されてきたこと、薬物やギャンブルに依存していたことなど、暗い過去は誰しも打ち明けたくないものです。