6億円の被害額を取り戻すことに成功
たとえば、エクシアの事案では、私はまずエクシアの代表に対して被害者とエクシアとの契約解除を求める民事訴訟を起こし、勝訴しました。
エクシアの定款には「社員権の払戻金について、代表の裁量によって払戻を拒否できる」という規定がありました。簡単に言えば、被害者が出資したお金の払い戻しを要求したとしても、代表の権限で拒否できるというものです。エクシアの代表はこの規定を使い、出資金の払い戻しを拒否するようになったのです。つまり、被害者は自分のお金を取り戻せない状態が続いていたということです。
民事訴訟では、この規定自体の無効、裁量権の逸脱を主張し、このことが裁判所から認められました。その結果、エクシアの口座にあった6億円を仮差押えすることができたのです。その次に代表の自宅の動産執行をし、執行官の方と直接乗り込んで、家財道具の一式を差し押さえました。
ただ、構造の複雑さでいえば、エクシアの事案も非常に複雑なものでした。たとえば末端の社員などを捕まえたとしても、「代表がやっていたので、運用していたのかどうなのか、本当に知りません」となってしまう。巨大な組織になればなるほど、細分化されてしまって全体像を見ることはできなくなってしまいます。
また、一般的に騙される人は「まさか自分が騙されるとは思っていなかった」と驚いていますから、やり取りを録音するなど、証拠を保全することは非常に稀です。そもそも相手の話を録音するほど警戒している人なら、詐欺には引っかからないですからね。
翻って、騙す側は当然「カモにしてやろう」という意識で近づきますから、足のつくような真似はしません。そもそものスタートラインにおいて、差があることがおわかりになるかと思います。
金を受け取った「動機」と「使い道」が重要
――被害者が加害者にお金を振り込んだ、などの事実だけでは証拠とならないわけですね。
そうです。AさんがBさんにお金を振り込んだことは事実として認定されるとしても、それがどのような意図で行われたのかを完全に立証するのは容易ではありません。極論をいえば、騙し盗られたのではなく厚意で差し上げた可能性も否定できないですよね。
加えて、条文(*1)にも「人を欺いて」とあることから、Bさんに詐欺の意志があったのかどうかを証明できなければ、詐欺事件とは認められないわけですね。
(注)
(*1)刑法第246条
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の拘禁刑に処する。
前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。