ひとり親家庭が感じる「体験の格差」とは?
令和3年度の「全国ひとり親世帯等調査(厚生労働省)」によると、日本には100万世帯を超えるシングルマザー・母子世帯があります。
年収の分布でもっとも多いのは27.7パーセントを占める「年収100~200万円未満」のシングルマザー。次いで、「200~300万円未満」が24.2パーセントです。シングルマザー世帯の困窮……その大きな理由のひとつは、最低賃金が低いゆえの収入の低さにあります。
いったん仕事を辞めて育児に専念していた女性が再び就職しようとする場合、仕事と育児の両立を考え、どうしても非正規雇用、パートで働かざるを得ない状況があります。赤石さんは「ずっと賃金が上がらないどころか、パートでは、歳を重ねるにつれて年収が下がる傾向があります」と説明します。
困窮するシングルマザー家庭のなかには、生活保護を検討する方もいますが、元夫を含めた親族に経済的に支援できるかどうかを確認する「扶養照会」の制度があったり、車の所有が認められない、子どもの進学のためのわずかな貯金でさえなくす必要があるといった事情から諦めてしまう人も多いそうです。
生活保護を受けている人のなかで母子家庭の割合は全体の10パーセントです。ところが、厚生労働省の調べによると、生活保護を受けていない母子家庭の多くが生活保護の水準以下のレベルで生活していることがわかっています。
この他、フルタイムで働く別のシングルマザーの方に当事者インタビューをおこなったところ、出産後は育児のために残業や夜勤ができなくなったため月の収入が8万円ほど減少。物価高により生活費を切り詰める毎日が続く中、子どもの友人家族からのテーマパークの誘いに子どもを連れて行くことができない、といった声も届きました。
ひとり親家庭では教育格差のみならず、「体験の格差」も深刻です。「私どもの調査では、およそ5割の方が夏休みの予定がないという回答があり、友達と遊びに行けないことで、子どもの孤立につながるのではないかと悩まれているお母さんもいます」と赤石さん。
貧困から、ユニフォームや道具代、遠征費などを支払うことができず、子どもが部活動に参加することができない、修学旅行を諦めざるを得ないといったケースもあります。一人親家庭にとって部活動はぜいたく品になりつつあるのです。
日本社会において、子を持つ女性は“母としての役割”を過度に期待されてしまい、子育てに注力することを求められる傾向にあります。そのことから、仕事との両立に苦しむケースが後を絶ちません。子どもを持つことによって生じる社会的・経済的に不利な状況は「チャイルドペナルティ=子育て罰」と呼ばれています。赤石さんは「みんな頑張っているんですけれども、子どもに何かあったら母親の責任だと言われてしまうんですね。非常に不利な立場に追い込まれてしまっているのかなと思います」とコメントしました。