家族間でトラブルが起きてしまうのはなぜなのか。脳科学者の中野信子さんは「距離が近すぎるあまり客観的に見ることができず、愛着が強すぎるからこそ必要以上に攻撃してしまうのだろう。歴史的に見ても、家という存在が凶器となるケースは枚挙にいとまがない」という――。
※本稿は、中野信子『なぜ、愛は毒に変わってしまうのか』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。
誰もが抱く「親族だから許せない」
この数年、日本で起きている殺人事件の内訳をみると、親族間での殺人が頻繁に起きています。法務省が発表している殺人事件の動向というデータでは2016年に摘発した殺人事件(未遂を含む)のうち実に半分以上の55%が親族間殺人。実際に検挙件数そのものは半減している中で親族間殺人の割合は増加しています。
殺人事件そのものは減っているのに、親族間の事件は増加している。つまり、家族、血族、そして他人から家族になった人に対して強く明確な殺意をもたらすほどの感情がむしろ強まっているということがわかります。
他人であれば許せるけれども、親族であると許せない。一見パラドキシカルですが実は、誰もが抱いたことのある感情ではないでしょうか。
親子、兄弟姉妹、そして祖父母と孫……。近い間柄で近親憎悪は起こりやすいのですが、血縁関係にかぎったことではありません。夫婦間でも他人同士なら生じないような感情の行き違いが生じます。事件として報じられるのは夫婦間で起こるものが話題になりやすいかもしれません。
家族への愛情と憎悪は紙一重
多くの人は、愛着とか愛情、家族の絆……そういったものを無条件に、崇高で美しいものだと思っています。だからこそ、そこで考えることを多くの人は止めてしまいます。家族の絆のためなら、と犠牲を強いてしまう。
自分ががまんしさえすればと思ってしまうのです。その結果耐え切れなくなったときに、相手に対して「殺したい」という憎悪の念が噴き出してしまう。
もともと他人として尊重していればそんなことは起こらなかったでしょう。家族として甘え、期待しすぎたツケを払わされる側はたまったものではありません。