「これはいけるんちゃうか」
瀬川と宮本がECサイト「ハモンズ」を立ち上げたのは、2012年5月のことである。
ハモンズという社名は「波紋」から取った。「笑顔が波紋のように広がるように」という瀬川の願いが込められていた。
ハモンズは結婚祝いの日常食器を販売するサイトである。なぜ、このジャンルを選んだかといえば、瀬川と宮本が結婚した際、お祝いにもらった食器にヒントがあったという。
瀬川が言う。
「友人や同僚から結婚祝いに食器類をもらったんですが、中身はすごくいいのに包装がいまいちなものが多かったんです。なかにはボロボロの箱に入っているものさえありました。それを見て、もらった瞬間に『わー嬉しい!』って気持ちになれる結婚祝いを作ったらいけるんちゃうかって考えたんです」
安易と言えば安易な思い付きである。宮本はどう思ったのだろう。
「ウェッジウッドみたいなブランド物の食器をいただいても、もったいなくてなかなか使えませんよね。だから、日常的に使える食器でいい感じの包装にすれば、新婚の人は喜ぶんじゃないかと……」
やっぱり、安易と言えば安易な思い付きのような気がする。
とにもかくにも、商材を仕入れないことには商売を始められない。瀬川は多治見などの食器の産地を駆けずり回って食器を仕入れた。仕入れの資金は、資本金という名の2人の預貯金である。
月商たったの9万円で、納豆と豆腐を食べる日々
ハモンズの商品は、売れなかった。
サイト開設当初は、月次の売り上げが9万円ほどしかなく、到底、月15万円の家賃を払い続けることはできなかった。見るに見かねた宮本の母親が、自宅の2階を事務所として貸してくれることになった。
2万円ほど家賃を入れたものの、瀬川の立場はほとんど居候である。
「お母さんがテレビを見てはる前を、すんませーんお風呂いただきますなんて言いながら、腰をかがめて通ったりしてましたね(笑)」
食事は、納豆と豆腐ばかり。しかし、そこまで切り詰めても生活は厳しく、売り上げは一向に伸びず、設立から1年も経っていない2012年12月に会社の預金残高が200万円になってしまった。
「どんどんお金が減っていく恐怖を、生まれて初めて味わいました。注文が来ないから何もやることはないのに、デスクにしがみついていないと不安で不安で仕方がないんです」(瀬川)
宣伝を打たないからサイトに客を誘導することができない。それが、ジリ貧の原因だったが、資金が減り続ける状況下では、大金をかけて宣伝を打つ勇気を持てない。
「もう、苦しくて苦しくて、どこかからお金を借りようと決心しました」