平均寿命まで生きられるかどうかが問題
年額200万円の年金をもらうはずだった人の例で考えてみましょう。60歳から年金をもらい始めると、80歳時点でトータル3040万円(年額152万円)もらうことになります。
65歳からもらい始めていたとしたら、80歳でトータル3000万円です。この時点では、まだ得です。繰上げしなかった場合のトータル金額が上回るのは、80歳10カ月。つまり、そこまで長生きすると、ようやく「繰上げは損だった」ということになります。
これは、年金額が100万円でも、300万円でもほとんど同じです。つまり、年金額にかかわらず、損益分岐点は決まっています。
もう少し細かく分析して、年金から税金や社会保険料を差し引いた手取りベースで見ると、もう少し後ろに下がって82歳あたりになります。
日本人の平均寿命は、男性は約81・41歳、女性は約87.45歳。要するに男性の平均寿命あたりが、損するか、得するかの分岐点ということです。
男性なら、平均寿命まで生きられたら繰上げの選択はうまくいったことになります。一方、女性はもう少し長生きするので、繰上げ受給をすると損をする人が多いといえます。もちろん、結果として、得するのか、損するのかは誰にもわかりませんが。
「健康寿命」を考慮して悔いのない選択をする
年金を早くもらっている人のなかには、「元気なうちに楽しみたいから」という理由を挙げる人もいます。
そういう人たちが意識しているのが、健康寿命です。健康寿命とは、誰かのお世話になることなく自力で日常生活を送れる期間のことで、平均寿命と比べるとぐっと短くなります。男性は72.68歳、女性は75.38歳といわれています。
「体が元気なうちに趣味や旅行などを楽しみたいから、年金は早めにもらう」。
それも、ひとつの選択肢なのかもしれません。
確実に年金を受け取ることを重視するのか、長生きリスクを重視するのか。自分自身のライフプランと合わせて総合的に判断・選択する必要がありますが、私は自分が決めた受給年齢が正解だと思っています。
繰上げ受給は、年金が少なくなるとはいえ、60~65歳の5年間で働かなくても入ってくるお金が増えるのは事実です。そこをどう考えるかだと思います。
ここまでお話してきた内容でお分かりのように、年金を最大化できる年齢は人によって異なります。どんな老後を送りたいのか、自身の人生プランや健康状態と照らし合わせて、後悔のない方法を選んでください。
年金はもらい始めた後でも金額を増やせる
意外と知られていませんが、厚生年金は70歳まで加入することができます。年金は65歳からもらい始めるため、厚生年金はそこまでしか入れない、というふうに勘違いしている方が多いようです。
65歳以降も引き続き厚生年金保険料を払い続ければ、年金をもらい始めた後も、年金の額を増やすことができるのです。
65歳以降は、納めた厚生年金保険料が毎年再計算され、年金額に反映されます。これを「在職定時改定」といいます。例えば、65~70歳まで、月額20万円で5年間働いたとしたら年金はいくら増えると思いますか?