「やりたい放題でもいいんじゃない?」
有働 脚本は1話書いたら「これは自信あり」と思えるものですか。
大石 そんな訳ないでしょう。毎回泣きそうに不安です。
有働 何が不安なんですか?
大石 完璧なものはないですから。アナウンサーだって、そんな感じじゃないんですか?
有働 自信があるときなんて、1回もないですね。
大石 でしょ。だから、私に足りないところがあれば、スタッフみんなの力でいいものにして欲しい、という気持ちで書いています。ドラマの哲学は台本に込めなきゃいけないけど、あとの料理はみんなで上手いことやってねという気持ちです。
有働 出来上がった作品を見て、「あれれ?」って、ガッカリしちゃうことはないですか?
大石 あります! だけどあれこれ諦めながら、違いを楽しむ心がないと、この仕事は出来ません。
有働 楽しめるものなんですか。
大石 「この野郎〜」と思うこともありますよ。でも「ああ、見事に素敵にしてくれた!」ということも、もちろんあるので頑張っていけます。ドラマ制作では、100人のチームで、みんなで力を合わせて料理をする。そこが脚本家の小説家と似て非なるところであり、仲間がたくさんいるのが楽しいんです。
有働 『光る君へ』の舞台である平安の世は、それこそ不倫だらけの時代じゃないですか。でも今は、不倫のフの字でも出た人はテレビにすぐに出演できなくなりますよね。
大石 ちょっと恋をしただけで仕事を失うって、恐ろしい世の中です。「いい思いしやがって」という人々の嫉妬心。
有働 脚本家の仕事は、そういう変化の影響を受けますか?
大石 普段できないからドラマの中で夢を見てもらえるようにと思って作っています。特に平安時代は、男が女を挨拶代わりに抱くような……廊下なんかでもやっちゃったらしいんですよね。
有働 廊下でも!?
大石 女性も添い遂げるなんていう感覚はさほどなく、嫌だと思ったら転職するように夫を替える。だから男も女もみんなが逞しいし、根源的なエネルギーに溢れていた時代なんです。今のこの閉塞的な時代に「やりたい放題でもいいんじゃない?」という気持ちも、脚本に込めました。
有働 私は独身ですけど、この仕事をしていると、恋をしていることも明かせなかった。男がいると思われちゃいけない感じがして。
大石 それはNHKのアナウンス室がなかなか窮屈なところだったんでしょう。私なんかは結構やりたい放題でいましたよ。
有働 それこそ不倫も?
大石 結婚前に不倫したり、結婚してからも好きな男ができたりしました。72歳になった今では、欲望も薄らいでますけど(笑)。
有働 若い頃が気になります!
大石 欲しい男は必ず押し倒していました。私は黙っていても誰かが寄ってくるような有働さんのような魅力がないので、好きな人には「好きです」と打って出る。男の人って気が弱いから、必ず「そんなに僕を好きなら付き合ってみましょうか」ってなりました、昔は。
有働 ひえ〜、すごい。『セカンドバージン』は女性が17歳下の男性と不倫する話でしたが、執筆当時の大石さんは22歳下の方と付き合っていたと聞きました。
大石 はい。私の知り合いにも似たような人がいたし、表に出ないだけで意外とあるものなんですよ。
有働 そういう恋人の存在は、夫公認だったんですか?
大石 もちろんそうです。いつでもそうです。
有働 夫婦間でトラブルにはならなかったのでしょうか。
大石 夫は去年他界したのですが、夫も女性と旅行に行くとか適当にやっていました。でも仲良し夫婦でしたよ。お手伝いさんに「いろんな家に行っていますけど、こんな仲良しなご夫婦は見たことない」と言われたぐらいです。
有働 お互い嫉妬しないですか?
大石 私たちはなかったですね。嫉妬しない方が穏やかに暮らせるし、食べ物の好みが似ているとか、笑いのポイントが似ているなどの方が、結婚生活では大事だと思います。性的なことは、どうぞ外でやってくださいと。
有働 この文化を広めたい人、手を挙げてという感じですが(笑)。
大石 でも夫のことが第一でしたし、最期も苦しまず恐れず旅立てるように、これ以上は出来ないくらい頑張りました。夫も感謝して逝ったと思います。イチャイチャした仲ではなかったけど25歳から連れ添って親より長く一緒にいたから、片腕がなくなったような感覚です。
有働 愛情が中途半端ではない。
大石 愛とエロスはちょっと違うんですよね。
※大石氏と有働氏の対談「『光る君へ』でほのぼのとしたエロスを醸し出したい」全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
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【動画】大石静×新谷学「『光る君へ』私の理想はあの男!」 #前編
【動画】大石静×新谷学「『光る君へ』押し倒す女たちへのエール」 #後編
【動画】直木賞作家・澤田瞳子「大河ドラマ『光る君へ』を10倍楽しむ! 紫式部の生きた時代」
【対談】大石静×有働由美子「『光る君へ』でほのぼのとしたエロスを醸し出したい」
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【グラビア】「日本の顔 吉高由里子」大河ドラマの現場でも弾ける笑顔は健在
【エッセイ】倉本一宏 「『光る君へ』時代考証の苦労と喜び」