井戸敏三前知事の「震災チャンス発言」

斎藤知事の先代の井戸敏三氏は、どうだったか。井戸氏は、兵庫県新宮町(現たつの市)出身だが、東京の日比谷高校を卒業し、東京大学から貝原氏と同じく自治省に進む。副知事から県知事へ、という経歴も同氏をなぞっている。

兵庫県の井戸敏三前知事(2009年10月4日)(写真=Corpse Reviver/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

そんな井戸氏が全国に名をとどろかせたのは、「関東で震災が起きれば(東京が)相当なダメージを受ける。これはチャンス。チャンスを活かさなければならない」との失言だった。2008年11月11日に和歌山市で開かれた近畿ブロック知事会議でのこの発言で、その後、謝罪、撤回に追い込まれている。

内容だけで非難に値するばかりか、あまつさえ阪神・淡路大震災の被災地だった兵庫県の知事が、どうしたら、こういう発想に至るのだろうか。そこには、貝原氏の危機意識の薄さと通底する、東京からの「お客さま気分」が漂っているのではないか。

いまの斎藤元彦知事もまた、彼らの系譜に棹さしている。

「官僚→副知事→知事」という流れは止まったが…

なるほど、斎藤氏は、前知事の井戸氏が後継に指名した当時の副知事を選挙で破ったから、東大から自治省、そして、副知事を経て知事へ、という戦後の兵庫県の流れを断ち切ってはいる。

また、総務官僚出身の知事は、いまでも全国47都道府県知事のうち11人を占める。過半数の25人が中央省庁のキャリア組出身であり、27人が東京大学出身である。とりたてて兵庫県だけが変わっているわけではないとも考えられる。

しかし、同じ近畿圏の府県と比べると、どうか。

お隣の大阪府は、いまの吉村洋文知事や、前の松井一郎氏、その前の橋下徹氏や、さらに前の太田房江氏、のように、経歴も性別もバラけている。京都府も、キャリア官僚出身者が多いものの、その前、1950年から28年間にわたって旧・日本社会党などの革新系勢力が支持した蜷川虎三氏が知事を務めていた。

あるいは、2024年現在の人口で兵庫県(約546万人)と同規模の500万人程度の自治体と比較してみよう。北海道(約522万人)の現知事は、東京都職員出身の鈴木直道氏であり、福岡県(約513万人)は同県職員だった服部誠太郎氏である。しかも、ともに、歴代知事は、官僚以外にも、学者をはじめとして多様なバックグラウンドを持っていた。

この2つの自治体に限らず、東京都知事を見れば明らかなように、都道府県知事とは、戦前の官選、つまり、国が選んで派遣する時代とは大きく変化しているし、何よりも、それが民主化の象徴だったのではないか。