「原初の巨人ユミル」→「始祖ユミル」に

【読み解きのカギ】

『進撃の巨人』と北欧神話

世界的な大ヒットを記録した人気漫画『進撃の巨人』。壁に囲まれて暮らす人類が、壁の外からやってきて人を喰う巨人たちに必死に抵抗しながら、世界の謎に迫っていく……という物語ですが、北欧神話を知っていると、点と点がつながることが多いんです。

例えば、物語の核心に触れる「始祖ユミル」の存在など、北欧神話と関連のある要素が作中のところどころに登場します。「巨人が悪役の物語」が、古代から現代にまで、まさに“2000年の時”を超えて受け継がれていると考えると、非常に興味深いですね!

妖精のエルフは2種類いる

現代で「ファンタジー」と呼ばれるゲームや漫画の多くに、妖精の「エルフ」や小人の「ドワーフ」といった種族が登場しますよね。近年では、長寿種であるエルフの女性が主人公の漫画『葬送のフリーレン』も大人気。実はこれらの種族の起源は、北欧神話なんです。まさに、現代ファンタジーの原点というワケ! スゴい!

エルフは、北欧神話を語る古ノルド語では「アールヴ」と呼ばれ、非常に長寿、あるいは不死とされる妖精の種族です。そして意外にも、身長が小さく性格が悪いのだそう。現代の「知的な森の番人」のイメージとは異なりますね。

黄金の妖精
写真=iStock.com/Lidiia Moor
※写真はイメージです

さらにエルフは2種類いるとされ、光の妖精リョースアールヴがアールヴヘイムに住み、闇の妖精デックアールヴがスヴァルトアールヴヘイムに住むとされています。光のリョースアールヴの容姿は太陽よりも美しいのですが、神々の中で最も美しい容姿を持つとされる豊穣神フレイが彼らの国を統べているのだそう。一方の闇のデックアールヴは、様々な作品にも登場する「ダークエルフ」のこと。残念ながらどんな種族なのか説明はほとんどありません……。気になる!

ユミルの死体から生まれたドワーフ

さて続いて、小人のドワーフですが、古ノルド語では「ドヴェルグ」と呼ばれていました。ドヴェルグはなんと、巨人ユミルの死体から生まれたそう。最初はウジ虫でしたが、神々によって小人の姿と知性を与えられ、大地の下にある小人の国ニザヴェッリルで暮らすように。

そんなドヴェルグは鍛冶技術に優れていて、彼らが作った強すぎる武器や道具が多く登場します。オーディンが持つ、必勝の槍グングニルもその1つ。他にも、雷神トールの戦槌ミョルニルや、狼の怪物フェンリルを拘束した紐グレイプニルなどを製作したドヴェルグは、まさに匠。このイメージは現代作品にも続いていますね。

小人のドヴェルグ

『巫女の予言』という北欧神話の詩が収録された19世紀の書籍には、2人のドヴェルグの挿絵が描かれました。このドヴェルグは背丈が低く髭をたくわえた姿で、現代のドワーフのイメージにかなり近いものになっていますね。

ちなみに現代ファンタジー作品では、エルフがドワーフの容姿を「醜い」と罵る……といった場面がよく見られます。このような「エルフとドワーフは仲が悪い」という定番の設定もまた、『指輪物語』(次頁のコラム参照)が起源と考えられているんです。