日本の中に、中国系だけの「経済圏」を形成している
新型コロナ禍では、認証と同時に検温もできる点が顧客に喜ばれ、急速に需要が増えた。武藤氏はいう。
「勤怠管理もでき、イベント会場などでも利用できます。中小企業はまだ紙での管理が多いですが、これから確実に利用者が増えていくと思います」
同社は、中国ではかなり定着している清掃ロボットなども日本企業に販売する。
「人手不足が深刻化し、清掃や介護用のロボットが必要とされる時代になります。日本市場でも活用できることがたくさんあるので、中国のいいものはもっと日本に取り入れたい。そこに、私たち中国系企業の役割もあると思います」(武藤氏)
これらのように、中国系だけで「経済圏」を形成している一つがインバウンド事業で、とくに団体旅行客の訪日旅行だ。団体旅行の場合、中国の旅行会社で手続きして来日するが、日本到着後、受け入れるのは中国系旅行会社であることがほとんどだ。
中国で団体旅行を実施できる旅行会社は政府の認証が必要で、その旅行会社は、日本の中国系旅行会社と契約している。
15年の「爆買い」ブームの頃、福岡県の箱崎埠頭に到着する中国のクルーズ船の取材をした。約5000人の乗客の9割が中国人で、彼らが分乗する観光バスのガイドも全員中国人だった。
中国人相手の土産物店、違法な白タクも…
九州北部の三県から集められた、30台以上はあろうかという大型観光バスの運転手は日本人だったが、案内するのは中国系の免税大手『ラオックス』や、中国人経営の土産物店などで、対応する販売員もほぼ中国人だった。
個人客の場合は、友人のSNSなどを見て自分で観光地を探す。彼らは情報収集力があるので、むしろ、できるだけ中国人の店員がいない店に行くが、それでも空港などでは利便性と時間の節約を考えて、中国人運転手の違法な白タクを利用することもある。
ウィーチャットで送迎の依頼を受け、中国の決済機能、ウィーチャットペイで支払う。日本のシステムを利用しないため発覚しにくく、摘発が難しいといわれている。
こうした一連の流れを中国語では「一条龍」(イーティアオロン=一匹の龍)と表現する。「中国式エコシステム」ともいい換えられるが、最初から最後まで首尾一貫して中国人だけで回る経済圏、経済ネットワークになっているという意味だ。日本の観光地やホテルを巡り、日本にお金は落ちているものの、関連ビジネスはほとんど中国系企業、中国人で占められている。ハードは日本だが、ソフトはすべて中国人なのだ。