野球離れが進んでいる。スポーツライターの広尾晃さんは「要因のひとつにデータ野球が完全に浸透していないことが挙げられる」という――。(第2回)

※本稿は、広尾晃『データ・ボール』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

少年野球の控え選手
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「学ばない、変われない指導者」はどうすれば変わるのか

高知大学准教授の中村哲也は、2023年に『体罰と日本野球――歴史からの検証』(岩波書店)という本を出して、大きな反響を呼んだ。

同書では、体罰、パワハラをする指導者がなくならない日本野球にあって「近年のスポーツ科学の発達と、ネット等のメディアによる情報の発信・拡散により、野球をはじめとしたスポーツの理解やその指導法は劇的に進化している。

統計学的手法を駆使したセイバーメトリクスによる選手能力の分析、ボールの回転数・回転軸等のトラッキングデータによる球質の改善、スイングスピード・打球角度の測定に基づく打撃理論、栄養学とトレーニングを駆使した筋力強化、コーチング理論に基づく指導等、野球指導者に求められる知識は極めて多様で、日々進化している。

ソフトバンクホークスの監督として日本シリーズ4連覇を達成した工藤公康や、仙台育英高を率いて初の東北勢優勝を果たした須江航など、これらの知識に精通し、実践した監督が実績を出すようになっている。学ばない指導者、変われない指導者の居場所は、野球界でも急速に狭まっているように思われる」と書いている。

本書(『データ・ボール』)で紹介してきた、「データ野球の進展」の最大の目的は、まさに中村の言う「学ばない、変われない指導者」の変革を促すこと、あるいはそれができなければ退場させることにあると言えよう。

日本野球は「精神論」「根性論」「年功序列」が永年、幅を利かせてきた。しかし社会の変化、とりわけ情報化の進展とともに、こうした「内向きの価値観」は支持されなくなり、もっとオープンでフェアな価値観が野球界にも浸透しつつある。