洗濯洗剤ボールドのCMには菊池風磨を起用

人気に便乗したいのか、P&Gが2022年2月から、洗濯洗剤ボールドのキャラクターに、アイドルグループSexy Zoneの菊池風磨を起用。「洗濯大名」「洗濯王子」などのキャラクターを演じさせコミカルに商品の魅力を伝えるが、洗濯を誰がやっているのか伝える場面はない。その意味で、内容的には従来型と言える。同社のアリエールも、生田斗真や大泉洋などが出演するが、やはり誰が洗濯しているかは描かない。

花王は2021年にパナソニックとタッグを組み、人気ロックバンド[Alexandros]の川上洋平を起用し人気を集めた。日立は芦田愛菜を起用するが、芦田が洗濯するわけではなく、具体的な作業を見せ場にするわけでもない。

洗濯機のCMの現状を表していると思われるのが、リンナイのガス衣類乾燥機「乾太くん」紹介の変化だ。2020年に放送されたシリーズは、運動会でよく使われるクラシックの「クシコス・ポスト」の替え歌で乾燥時間の短さをアピール。小さい子どもがいる家庭で、「乾太くんにお任せだ」とお母さん(山田キヌヲ)がウィンクをしながら洗濯を片づける。高度経済成長期に放送されたアメリカのホームコメディ『奥さまは魔女』を彷彿とさせる、どこか懐かしいテイストだった。

女性に家事や育児を押し付ける印象のCMが炎上

ところが最新バージョンは、小さい娘がいる3人家族の描写で、父親が洗濯を行い、母親が最後にうれしそうにタオルを顔に当てるシーンがある。

折り畳まれたタオル
写真=iStock.com/NYS444
※写真はイメージです

4年前のCMは、家事能力が万能な「スーパーお母さん」を描いているようにも受け取れる。しかし、現在は父親が家事をする。同社の表現の変化は、家事は女性がやるものという価値観から、男性がやってもおかしくない、という現代の風潮に足並みをそろえたように見える。

振り返れば、少し前まで洗濯CMは、女性の担い手が前提だった。アリエールも2010年頃は、草彅剛が出演する「ありがとう、君とアリエール」のセリフが決まり文句で、「はたらくのは妻」と示している。ボールドも、以前は西洋人女性が広い芝生の庭で洗濯物を干す幸せを描いていた。

各社の変化を促したのは、2010年代後半に本格化した、第4波フェミニズム・ムーブメントだろう。女性たちが家事の省力化を求めるムーブメントを起こし、女性に家事や育児を押しつける印象のCMが次々と炎上した。そこで、遅ればせながら各社は批判を恐れ、家事をする女性をCMから外し、はたらくとすれば男性、という方向に舵を切ったのではないだろうか。