権利者は30人もいた
正蔵は祖父の戸籍までさかのぼり、権利者を確定させましたが、祖父は祖母と二度目の結婚だったことがわかったのです。権利者は、なんと総勢30人にものぼりました。
正蔵はすべての権利者に手紙を送り、5万円のハンコ代を渡して相続の権利を放棄してもらうように依頼しました。
ほとんどの権利者は「5万円ももらえるならラッキー」とばかりに、権利放棄の書類にハンコを押し、返送してくれました。
「絶対にハンコなんか押さない」
ところが、なかには固辞する権利者が現れました。それは、祖父の前妻の子どもたちです。
どうやら祖父は、前妻を捨てて不倫相手の祖母と再婚したらしく、祖父の前妻は女手ひとつで苦労して子どもたちを育てたようでした。前妻の子や孫たちはそのことを根に持っていたのです。
「なんで、母を捨てた元夫の子孫の相続の手伝いをしなきゃならないんだ!」という心境なのでしょう。
正蔵は祖父の前妻の子や孫らに連絡を取ってみましたが、「絶対にハンコなんか押さない」「なぜ、あんたの相続に協力しなければならないの」と、にべもなく押印を拒否されました。
正蔵はもうヘトヘトです。「古民家のリノベーションに2000万円くらいかかるし、こんな大変な思いまでしてやることないよな」と、あきらめることにしました。正蔵が消耗している姿を見ていたひかりも、「しょうがないわよ」と同意してくれました。