世界的にも新聞社のDXで成功例となった日経電子版

【西田】その点で言うと、実はすでにクラスは分かれているのではないでしょうか。具体的に言えば、日経新聞電子版を契約しているかどうかがエリートと非エリートを分ける目安になっている。月4000円とサブスクにしては高額ですが、日経は日本国内はもちろん、世界的にも新聞社のDXの中では成功例です。紙の新聞はおまけみたいなもので、これからはDXの時代だとトップダウンで舵を切った。それが功を奏し、意識が高いビジネスパーソンや、就活で一歩先を行きたい学生が購読しています。

【大澤】なるほど、そう見るとたしかにクラスが形成されつつありますね。

【西田】問題はやはり中間層で、全くテキストを読まなくなりつつある人たちを、どう踏みとどまらせるか。インターネットの浸透でテキストを読む量自体はむしろ増えているという調査もありますが、知的であるということはどういうことかと言えば、単にテキストを眺めているだけではなくて、ある程度の体系性を持ち、向上しようと思いながら読む作業を伴うものだと思います。「知的であれ」という価値観が建前ごとなくなった時代に、どうやって階層を上らせていくかが問われているのでないでしょうか。啓蒙の問題です。

集合的で体系的なメディアのルートをどうやってつくるか

【大澤】まさにそこです。今はどこも読者を購読者としてしかカウントしていませんが、紙の書籍や雑誌の場合、立ち読みしたり、人から借りて読んだりする人間も存在しました。それがいずれ購読者になる場合もあった。というか、私たちの世代まではそうやってしか新しい本を知れなかったはずです。不可視の読者たちが裾野を広げていたわけです。デジタルだと、こうした潜在的な購読者がペイウォールに阻まれて存在しようがない。ルートが見えにくいんです。

独立系メディアや個人が大量に無料の動画コンテンツを提供し、新聞社が入口になるような無料記事をたくさん用意したところで、入口ばかりあって出口がなく、無数にある入口をひたすら横へ横へと巡回するしかない状況がある。もっと掘り下げた専門的なものが必要になったときに、たとえ小さいメディアでも段階を踏んで、とりあえずは手にできるような、集合的で体系的なメディアのルートをどうやってつくるかがポイントじゃないでしょうか。

そうした連環的なメディアの一環としてなら、新聞社が稼げる動画をつくるようなことはあってもいいように思うんです。たとえば、そこでエモは消化して、紙面は紙面の役割をきっちり果たす。そして、メディア間やコンテンツ間の水路付けをちゃんと設計する。

【図表4】通信技術の発達で「知的であれ」という建前が失われつつある
図版作成=大橋昭一