高まる需要に対し、金は産出を増やしづらい
2020年の年初以降、新型コロナウイルスのパンデミックで、世界の中央銀行は金保有量を増やした。2021年、世界の中央銀行などによる金保有量は31年ぶりの水準に達した。また、ウクライナ紛争の勃発以降、中国、ロシア、インド、サウジアラビアなど中東諸国、トルコ、ブラジルなど新興国の中央銀行が金の購入を増やした。
一方、供給は伸び悩みの状態にある。産金世界最大手のバリック・ゴールド(カナダ)の予想では、2024年まで採掘や鉱山開発にかかるコストは増加する模様だ。近年の世界的な物価上昇で、掘削に必要な電気、薬品、装置の維持費、人件費などは増加した。生産量は前年から横ばいで推移している。
金の鉱脈は見つかりにくいといわれている。産金会社は、既存の鉱山の掘削を進め金の産出を増やそうとしているが、金鉱石の金含有量は低下傾向にあるようだ。
中国人民銀行が金を“爆買い”する背景
主な金の需要主体の中でも、中国などの中央銀行の金購入は相場を押し上げた。金は安定した鉱物で耐食性に優れる。多くの人が金に対する一種の憧憬を持つこともあり、金の価値は太古の時代から安定してきた。最近の金価格の上昇については、金に価値が上がったというより、むしろドルなどの通貨の価値が下がっているとみたほうがよいかもしれない。
ウクライナ紛争の勃発後、米国は事実上、ロシアをドル資金決済網から排除した。G7はロシア中央銀行の外貨準備の凍結を決定した。米欧は、“国際銀行間通信協会(SWIFT)”からロシアの主要7行も排除した。
半導体や台湾問題で米国との対立が先鋭化する中国は、基軸通貨の米ドルに自由にアクセスできないリスクを認識しただろう。2023年、中国人民銀行は723万オンスの金を買い越し、公的な機関として世界最大の買い手となったようだ。
ロシア産の割安な原油を輸入し、国内の物価上昇リスクの抑制、石油関連製品の輸出増加につなげたインドも、米ドル依存度の低下に取り組み金の保有を増やした。中印以外の新興国の中央銀行も、外貨準備に占める金の割合を引き上げた。