戦前でも実行しなかったジャーナリズムへの弾圧
雑誌の後ろには「編集人」と「発行人」という二つの肩書が印刷されています。読者も、いや出版社の社員も、なぜ「発行人」が必要なのか知らない人が多いでしょう。発行人の役目とは、以下のようなものです。
戦前、特高警察の検閲が烈しくなると、編集人が警察署に引っ張られ拘禁されることが相次ぎました。そこで、出版社は発行人という、編集長より重責(ということになっている)職責の人間をたて、彼らが犠牲になって編集人の作業が中断されないよう、代わりに拘束されたり尋問されたりしていました。
警察もこのカラクリはわかっていても、自由にしていたようです。こんな昔話を持ち出したのは、戦前の警察でさえ、ジャーナリズムには一定の自由を認め、拘束や家宅捜索は慎重にしていたという事実も知ってほしいからです。
その、暗黒の戦前でもほとんど実行しなかった、ジャーナリズムへの弾圧を、鹿児島県警が平然と行いました。記者を任意(実際には強制)で警察署に連れてゆき、家宅捜索令状をだして「証拠物品」を押収、PCは複製したあと返却されたといいます。公務員の守秘義務違反の証拠押収という名目です。
ここにいたった、事件の経緯をまずまとめてみましょう。
2024年3月下旬、「HUNTER」というウェブメディアに所属していた記者に、その証拠物件は郵送されてきました。すると、その翌月の4月8日に、鹿児島県警曽於署の藤井光樹巡査長が、内部文書を第三者に漏洩した容疑で鹿児島県警に逮捕されました。さらに、同日に鹿児島県警は、「HUNTER」を運営する代表者の自宅を家宅捜索したのです。
押収したデータの中に、藤井巡査長からの告発とは別に、県警の生活安全部長だった本田尚志・元警視正による「告白書」もありました。そこには以下のような内容の事件がもみ消されそうになっていることが記されていました。
2023年12月に、鹿児島県枕崎市でトイレに侵入して女性を盗撮した事件が起き、容疑者として枕崎署の警察官が浮かびます。県警の生活安全部長として本田尚志・元警視正は「早期に捜査に着手し、事案の解明をしよう」と考え、上司の野川明輝・県警本部長の指揮を仰いだところ野川本部長は、「最後のチャンスをやろう」「泳がせよう」と言い、強制捜査にゴーサインを出さなかったというのです。
それ以外にも、捜査上知り得た住所などをもとにストーカー行為を行っていた警察官や、ストーカー事件が2件起きているのに、事実上もみ消した霧島署の前署長が、こともあろうに本田元警視正の後任として、ストーカー事件を扱う県警生活安全部長に昇進している事実が告発されていました。これらのストーカー行為は本部長指揮の事件となりましたが、明らかにされることはありませんでした。警察を定年退職した直後の本田元警視正が、これらの事実を広くジャーナズムに告発したいと、資料を「HUNTER」の記者に送っていたわけですが、本田元警視正は5月31日にいきなり、国家公務員法違反で逮捕されたのです。