そもそもドーパミンとは何なのか?

「ステップ③ ドーパミンを分泌させる」を見ていきましょう。

ドーパミンとはいったい何か。その正体について考えてみましょう。

ドーパミンは、人が目標を達成したとき、達成感や充実感を覚えさせてくれます。それが「快楽物質」(快楽に関係する脳内物質)と称される理由です。

ドーパミンと言えば「快楽物質」というイメージしかないかもしれません。確かにドーパミンは、快感を与える「報酬系」(reward system)の機能に、大きく関係しています。

けれども「快楽」は、ドーパミンが関係する多様な作用のほんの一部です。あまり注目されていませんが、ドーパミンは記憶や注意、気分、睡眠、学習など、人のさまざまなメカニズムに関係しています。

なかでも「やる気」との関係は深いものです。

専門的な話になりますが、「やる気」に関連するドーパミンの脳内の動きを見ておきましょう。大脳皮質など広範囲に広がる「中脳辺縁系ちゅうのうへんえんけい」は、最も大事な報酬系の神経系です。

報酬が予測されたとき、そのフィードバックとして「側坐核そくざかく」ではドーパミンが増えます。脳は、よくも悪くも「大きな出来事が起こりそうだ」と察知したとき、自分の身を守るため、すぐに動かなくてはならないために、やる気を発動してくれるというわけです。

つまり、そのような状態をスムーズにつくり出すことこそ、やる気のコントロールにつながります。このような背景を踏まえ、ドーパミンは「やる気分子」と呼ばれることもあります。

オフィスで親しみやすく話す若いビジネスマン
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悪い結果を避けたい時にも増える

“やる気分子ドーパミン”の素顔がうかがえる実験を、ご紹介しておきましょう。

「ドーパミンは大きなストレスがかかった瞬間に、急激に増える」という事実が明らかになっています。

「PTSD(心的外傷後ストレス障害)を負った兵士が、銃声を聞くとドーパミンが一瞬で増えた」

そんなデータが報告されています。「快楽」とは無縁に見えるこのシチュエーションで、なぜドーパミンが増えたのか。この研究結果は、非常に示唆に富んでいます。つまり、ドーパミンの作用は「快楽」に限らず「やる気」にも関係していると多くの専門家が指摘をしています。

銃声を聞いた兵士は「悪い結果を避けるために、やる気を出した」、近年ではそう解釈されています。

このようにドーパミンは、報酬を得る前にも、機能してくれることがあります。

この性質を利用しない手はありません。