パリ五輪の陸上800mに日本からは男女とも選手が1人も出場しない。なぜなのか。スポーツライターの酒井政人さんが日本の中距離が長く低迷している要因を分析した――。
陸上競技場でマラソンを走る選手に焦点を当てるシーン
写真=iStock.com/Alex Liew
※写真はイメージです

パリ五輪の陸上800mに日本選手が1人も走らない理由

パリ五輪の日本代表選考を兼ねた日本陸上選手権大会(6月下旬)は、高校生が大活躍した。

特に素晴らしかったのが800mランナーだ。男子は高3の落合晃(滋賀学園高)が制すと、女子は高2の久保凛(東大阪大敬愛高)が完勝した。大学生や実業団などの“大人”を差し置き、表彰台の一番高いところに立ったのだ。

落合は昨年のインターハイで大会新を叩き出した逸材だ。今季は5月にU20日本新記録&高校新記録を打ち立て、日本選手権の予選ではその勢いのまま日本記録に0秒07差と迫る1分45秒82(日本歴代3位)を出した。翌日の決勝も後続に1秒以上の大差で優勝。ただ、パリ五輪の参加標準記録(1分44秒70)には届かなかった。男子の“高校生V”は女子以上に価値が高いが、それでも落合は「パリの舞台に行けなかったことが本当に悔しいです」と話していた。

一方、久保は、サッカーのRソシエダード(スペイン)所属で日本代表の久保建英のいとことして話題になったが、実力は本物だ。昨年はインターハイ800mで“1年生V”を果たすと、同種目で高1歴代2位の記録をマーク。今季は自己ベストを続々更新し、今回の日本選手権でも自己新を出した。さらに、約2週間後の記録会で2分00秒45の日本記録を19年ぶりに更新して(1分59秒93)、日本人で初めて2分の壁を突破したのだ。

記録会のレース前に彼女はこう話していた。

「自分は800mという種目が好きなので、世界を体感したいです。日本選手権の優勝は自信になりましたし、次はオリンピックや世界陸上に出場できるよう練習していきたい。今年中に2分2秒を切って、来年は1分台を出したいと思っています」

落合、久保ともペースメーカーがいるレースで最大限のパフォーマンスを発揮できれば、もっとタイムを短縮できるだろう。

まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの2人の未知なるパワーに衝撃を受けた陸上関係者は多かったが、高校生が大きな注目を浴びることで複雑な心境になる人も多い。筆者もそのひとりだ。

なぜなら日本は800mでの“成功例”が非常に少ないからだ。