「忘れる」勇気が要るとき
私が思うに、問題は(5)と(8)である。なぜなら、(5)と(8)はそれまでの思考や行動のパターンを大きく切り替えなければならないからだ。要するに在家から出家へと、生活スタイルを劇的に転換する必要があるのだ。
これは、過去に多くの経験を積み重ねてきた中高年には、そう簡単なことでない。生活習慣化した過去の経験、特に成功体験の記憶が、切り替えの障害になるのである。
孫のような年の「先輩」の指導・指示に無条件で服従することから始まり、およそ「娑婆」では不合理としか思えない修行の数々を、屈託なく即座にできる者は、そう多くはない。
私が入門した頃には、新到和尚(新人一年目)が集まる大部屋の正面に、茶色に変色した紙が貼ってあった。
いわく、「年齢を忘れよ。過去を忘れよ。自分を忘れよ」。
けだし、出家に限らず、生きていると、この種の切り替えが必要になる場面が、一度や二度はあるだろう。その時、この「忘れる」勇気が要るのだ。
「考え方を切り替えろ」と、時として人は言う。しかし、考え方を本当に変えたいなら、生き方を変えるしかない。私はそう思う。