このまま賃金が上がり続けるとは言い切れない
需要が弱まることはデフレ要因です。りんごを例に説明しましょう。とある町のスーパーでは、1日100人が200個のりんごを購入していたとします。しかしながら、人口が減りお年寄りが増えるとどうなるでしょうか? 1日80人が120個のりんごしか買わない状態になるかもしれません。
そうなると、販売者や生産者は価格を下げて消費を促そうとします。つまり、売上減少となり利益も減り、給料も減り、経済には大きな逆風です。繰り返しになりますが、このデフレ現象は日銀にとっては回避しなければならないことであり、これが続くことは日本人全体が等しく貧しくなるのと同義です。
このように、賃金上昇によるインフレとなる可能性はあるものの、それを打ち消すマイナス要因も予見されています。また、人手不足はAIやロボットなどの代替手段によって緩和され得ます。加えて、日本は労働者の解雇要件が非常に厳しい特殊事情もあり、不景気時に人件費を削減できない経営リスクを踏まえると、一方的に賃金が上がり続けるとは言い切れないでしょう。
なお、最近では人口減少が逆にインフレを招くという学説も登場していますので、本当にデフレになるのかについては議論の余地はあります。ただ、人口減少が経済の低成長を招いてしまうことは疑いの余地はないでしょう。
お金を借りやすくして経済を刺激する低金利政策が続く
ですので、このような下振れリスクが予見されるなか、日銀は経済にブレーキをかける金融引き締め(高金利政策)は取りづらいでしょう。以上を踏まえると、「人口減によるデフレ懸念や低成長を回避するために、お金を借りやすくして経済を刺激する低金利政策が続く」が私の中長期的な金利見通しです。
一般に、人口推移は高い精度で予測できるといわれています。この予測をベースに金融政策の今後を考えることが、金利見通しのぶれないロジック作りに役立つと思います。
さて、このように筋道を立てていくと、「日本は今後米国のような高金利になる」という意見が短絡的だということがわかってくると思います。ご存じの通り、米国は成長産業であるIT分野においていくつもの超大企業を有しており、経済は好調です。
そして、人口もまだまだ増える見通しであり、米国勢調査局によると2080年までに現在の3億3500万人から3億7000万人まで増えるとのことです。デフレどころかインフレが進み、経済が過熱しやすい状況ですから、それにブレーキをかけるため今後も大幅な利上げがあってもおかしくはありません。日本と米国には大きな距離感があります。