第2フェーズは総額約194億ドル(約2兆1300億円)の巨費を投じて主としてガス田を開発するが、当初、LNGの販売の目処が立たず、先行きが危ぶまれた。ところが2002年8月に東京電力の原発事故隠しが明るみに出て、原発の運転が停止されると、代替エネルギーとしてLNGの需要が高まり、日本の電力・ガス会社に対する販売が次々と成約し、生産されるLNGの約6割が日本に来ることになった。

しかし、サハリン2に対する経産省の態度は冷淡だった。彼らの省益にとってもっと重要なサハリン1プロジェクトがあるからだ。サハリン1は、サハリン2よりさらに北の鉱区で進められている油田とガス田の開発プロジェクトで、エクソンモービル(米)、ロスネフチ(露)、ONGC(印)のほか、サハリン石油ガス開発(伊藤忠商事、丸紅、石油資源開発が出資)がスポンサーになっている。石油資源開発は経済産業大臣が全株式の34パーセントを握る筆頭株主で、会長、社長、専務など経営トップを経産省OBが占めている重要天下り先だ。

サハリン2に危機が訪れたのは、2006年に入ってからだ。ロシアのプーチン政権が天然資源の国家管理を国の方針とし、環境問題を理由に、サハリン2に揺さぶりをかけてきた。環境保護に関する法律違反があったとして、建設工事の中断を命じ、300億ドル(約3兆3千億円)の罰金を科すことを示唆した。

しかし、日本政府は、ロシアのやり方に対して有効な対抗策を講じることができなかった。11月に、ベトナムのハノイで開催中のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席していた安倍晋三首相(当時)は、プーチン大統領と会談したが、安倍首相が「プロジェクトに問題があれば、民間の当事者同士で解決すべきだ」と述べ、プーチンが「当事者間で話し合えば、解決策が見出せるだろう」と答えただけに終わった。

結局、2007年4月に、開発権の過半数(50パーセント・プラス1株)をガスプロムに奪われた。譲渡価格は、本来200億~300億ドルの時価(推定)があるにもかかわらず、74億5千万ドルという涙も出ないような安い値段だった。