自己中心性から脱却するためには
人はだれでも幼いうちは自分の視点しか持っていない。知的能力の発達には、語彙数の増加や文法構造の習得だけでなく、認知の発達全般が関係してくる。なかでも重要なのが、自己中心性からの脱却である。
心理学者のピアジェは、2歳から7歳の幼児期の特徴として自己中心性をあげ、そこから脱却することがこの時期の課題であるとする。ピアジェの言う自己中心性というのは、自分の視点しか取れず、他人の視点から物事を見ることができないという意味である。
この年齢段階の自己中心性を確認するために、ピアジェは、という課題を開発した。それは、高さが違う三つの山が前後にずれて並んでいる模型を見せるものである。たとえば、手前から見ると、右手奥の山が一番高く、左手の山が中くらいの高さで、右手前の山が一番低い。この模型を手前から見るのでなく、右横から見たり、左横から見たり、向こう側から見たりしたら、それぞれ見え方は違ってくる。
でも、この段階の子どもは、それがよくわからない。手前から見た図、右横から見た図、向こう側から見た図、左横から見た図を用意し、右横から見ている友だちにはこの3つの山はどのように見えるかと尋ねると、自分が今見えている図と同じ手前から見た図を選ぶ。自分以外の視点を取ることができないのだ。自分の視点から抜け出すことができない。
そうした自己中心性からの脱却という意味での認知能力の発達は、コミュニケーション能力の発達にも影響する。相手の気持ちに共感できるようになったり、相手の立場を想像できるようになることで、相手が口にする言葉の意味がわかるようになる。
だが、大人になっても、自己中心性から十分に脱却できていない人もいる。自分の視点からしかものを見ることができず、想像力を働かせて他者の視点に立ってみるということがないため、人の言い分が理解できない。
そうしたことの改善にも威力を発揮するのが読書だ。読書によって自分とはまったく異質の作者や自分とはまったく異質の登場人物といった他人の視点に触れることができるからだ。それによって自分以外の視点を取り込んでいくことができる。
〈言い方を注意したら「定型文がないと困る」と言われ…相手の気持ちに配慮できない部下の“ズレた返答”〉へ続く