日本企業の高度に分担されたタスクをサクサクこなせる同期たち

これには衝撃を受けましたし、ついていけない場面がよくありました。キッコーマンという会社組織のことがまだわかっていないからできないのかなと思って同期を見ると、私以外は最初からうまく振る舞い、仕事を上手にこなしていたのです。

これは私が中高時代の部活や大学のサークル活動やアルバイトで経験してきた組織行動とはレベルが異なるものでした。集団行動で本気を出す姿勢に驚嘆しましたし、周囲と比べると私自身は「どんなことをやらなければいけないのか」というタスクを飲み込み、自分がそれをやる意味を見いだして着手するまでに労力が必要であるのにも驚きました。

日本人は個人としてやりたいとかやりたくないということを抜きにして、「組織としてこれをやる」「だからあなたはこれをやりなさい」と決まると、サクサク仕事を楽しんでこなせる人が多いのか、と改めて気づかされました。

キッコーマンに勤めていた頃
キッコーマンに勤めていた頃(『日本再発見』より)

会社が好きで、会社のことなら一通りわかる人間が求められる

私は子供のころに部活でハンドボールを好きでやっていました。だから情熱を持てたし、チームを強くしたいという気持ちがあって、無我夢中で集団行動もできました。

ところが仕事では、必ずしも自分が好きなものに取り組むわけではありません。日本ではいわゆるローテーション人事が象徴するように、「私はマーケティングの仕事が向いている、この道のスペシャリストになりたい」と思っていても、人事異動で全然別の部署に配属になることがざらにあり、どんな場所でも一定以上の成果を挙げられるジェネラリストが高く評価される会社も少なくありません。

このような人事のスタイルは「どこの会社でも通用するプロフェッショナル人材を育てる」ものではなく、「その会社のことなら一通りわかる人間を育てる」ことに向いています。「この会社のことが好き」なら一生懸命になれる人にフィットし、「このタイプの仕事が好き」という人は異動先によっては苦労するしくみだと言えます。

私は入社時点ではキッコーマンという会社のことが特別好きだとは思っていませんでしたし、メンバーの一員として組織に貢献したい気持ちも育っていませんでした。だから目の前の業務に取り組もうにも、気持ちが付いてこなかったのです。