そんな大人の人に会ったことなかった

取材後に昼ご飯を食べた仮設商店街「気仙沼復興マルシェ」のスナップ。

合州国で見た人、会った人の話を聞かせてください。

男乕「アメリカって、みんな走ってるなあと思いました。上半身裸で走ってる人とかもいて。気仙沼では、つばきマラソンのときくらいしか走ってない(笑)」

小松「その時期になると、夜におじいちゃんとかが走ってて『ああ、つばきマラソンに出るんだな』とか思う」

阿部「頑張ってるなあって、そろそろだなあって」

面積約9平方キロメートル、人口約3000人。大島は気仙沼湾に浮かぶ東北最大の有人離島だ。震災後しばらくの間、気仙沼港と大島を結ぶフェリーが失われ、この島は孤島となった。毎年4月、この島を2000人以上が走るハーフマラソン大会が「気仙沼つばきマラソン大会」だ。震災が起き、2年連続で中止となったが、2013年4月21日に第30回大会が開催される見込みだが、ええと、走っている人以外で印象に残った人はいますか。この問いに、男乕さんが、ひとりのエンジニアの話をしてくれた。

「アップルのエンジニアの人。見たかんじ、すごいおっとりした、見るからに感じのいい人なんですけど、人生が波瀾万丈で。そんな大人の人に、いままで会ったことなかった。スティーブ・ジョブズに憧れて、親を無理矢理説得して、自分で貯めたお金で1回アメリカ行ったんだけど、英語が日本で教わったのとぜんぜん違って、ぜんぜんしゃべれなくて、ハンバーガーも買えなかったみたいで。泣く泣く日本に帰って来て、英語の勉強を一所懸命やりなおして、そうしてるうちに、ジョブズがアップルから追い出されて、ネクストって会社を立ち上げて。その人は、そのとき日本でどっかのサラリーマンだったらしいんですけど、ネクストに何もアポなしに行って『働かせてくれ』。そしたら面接があって、OKが出て。ネクストで働くようになって向こうで生活してたら、ある朝、アップルとネクストが合併していたという」

「そんな大人の人に、いままで会ったことなかった」——「TOMODACHI~」の意味をひとことに凝縮すれば、このことばになるのではないか。

最後に聞かせてください。気仙沼と合州国の、いちばんの違いは何でしたか。

男乕「日本人だと、バスの中で知らない人に声かけないじゃないですか。でもあっちは普通に声かけたり」

小松「バスの中で、いきなり "You are cool"って言われて。歩いてても『どこの人?』って言われて、"Japanese" って答えると "Cool, cool"って。向こうにいたあいだ、メッチャ"Cool, cool" 言われて(笑)。エレベーターの中でも必ず話しかけられて。"Japanese" って答えると、アニメが、とか東北っていう話が、通じたりして」

男乕「そう、"Kesen-numa" も通じました。ホストファミリーで『どこなの?』って言われて。『ああ、知ってるよ。ひどかったんでしょ』みたいなかんじで。"Tsunami" はもう、どこへ行っても通じるんでびっくりしました」

阿部「人が美しい。しかも、よく動くというか、フットワークが軽い。トークとかコミュニケーションも軽いし、実際に足運ぶというか、そういうのも軽いなと思って」

男乕「そう、ホストファミリーも、いろんな活動に参加したりする家だったんですよ。凧揚げるイベントに行ってきたとか、天文台のイベントに行ってきたとか。気仙沼の人は——そういう人ばっかりじゃないんですけど——けっこう引きこもりがちなかんじがする。たぶんあっちは、日本と比べて、安いんです。駐車場の料金だったり、バスも2ドルとか3ドルで、けっこう遠くまで行けたりするので、行きやすい環境なのかなと思います。日本は全部高いじゃないですか。なので、フットワークを発揮しやすいと思います、あっちのほうが」

聞けば、気仙沼から仙台までのバスは1800円だという。換算すると約22ドルになる。「2ドルとか3ドルで、けっこう遠くまで行けたりする」ということばは、大人の側が忘れがちな皮膚感覚なのではないか。この連載の中で、移動距離や交通費のことを多少しつこく記すようになっているのは、気仙沼で聞いたこの話が頭に残っているからだ。

次回は三陸沿岸を北上し、岩手県宮古市で6人の高校生に話を聞く。

(明日に続く)

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