パナソニックは今期、7650億円の赤字となる見通しだ。前期と合わせて2年で1兆5000億円超が吹き飛んだ計算になる。一方、サムスン電子の前期純利益は約9000億円。今期の最高益更新も堅い。(※雑誌掲載当時)なぜ、この差がついたのか。両国企業の「人材力」を徹底検証する。
「パッリ、パッリ!」――。韓国語で「急げ、急げ!」という意味を持つこの言葉こそが、韓国企業の特徴を表している。日韓の企業関係者や研究者への取材でもよく耳にした。迅速な行動は韓国人ビジネスマンの最大級の“美徳”なのだ。
経営トップは、先陣を切ってこの精神を実行する。韓国企業の強さの特徴として、オーナー経営者による迅速な意思決定を挙げる声も多い。表の通り、韓国GDPの半分超を占める4大財閥のすべてがオーナー企業。さらに資産総額の上位10グループをみると、サラリーマン社長を輩出しているのは製鉄会社のポスコのみである。
韓国最大の財閥であるサムスンは90年代前半、2代目オーナーの李健熙(イゴンヒ)会長のもとで、日本製の模造品を安価で大量生産する経営を見直し、「質」の向上を目指す経営へと舵を切った。その際、社員には「妻と子供以外はすべて変えろ」とまで言い切って、意識改革を促したという。
一方で、常に社員に気を配り、求心力を高めている。伝統的に労組が強い現代自動車財閥に対し、サムスンには力のある労組はない。サムスン電子元常務の吉川良三・東京大学特任研究員は説明する。
「李会長の意向により、全社員の結婚記念日に記念品が贈られたり、子供の学費の面倒まで見てくれます。また、サムスンにはPS(プロフィットシェア)手当という制度があり、税引き後の利益の1~2割が従業員に還元される。だから、不満も出にくいのです」
李会長は常に先を見据え、今も「5年後には中国に抜かれる」と公言して社内を引き締めている。こうしたメッセージは脇を固める参謀たちによって現場の社員まで届けられる。吉川氏は続ける。
「司令塔の役割を担うのが『秘書室』(現在は構造調整本部と名称変更)です。日本では東大卒の最優秀層はキャリア官僚を志望する場合が多いですが、ここには韓国の最優秀頭脳が数百人結集しています。会長が伝えるのは司令ではなく、経営上の判断だけ。司令の内容を固めるのが秘書室の役割です」