大手K-POP事務所のアートディレクターとして活躍していた

まずは今回のトラブルの概要を整理したい。ミン・ヒジン氏はもともと、K-POPというジャンルを開拓したとされるSMエンターテインメントで東方神起や少女時代などのアートディレクションで活躍していた。入社から15年目で取締役に昇進した立志伝的な人物のミン氏を、HYBEの創業者であるパン・シヒョク会長は「HYBE初のガールズグループを作ってくれ」と破格の条件でスカウトした。

2019年、ミン氏はSMを退社してHYBEにCBO(チーフブランドオフィサー)として入社。2021年にはHYBE傘下の独立レーベルであるADORのCEOに就任した。HYBEガールズグループのために設立されたADORの株は、HYBEが80%、ミン代表が20%の持分を分け合った。なお、その後、ほかのADOR経営陣と分け合ったことでミン代表の持分は18%に減少している。

2時間の緊急記者会見で思いの丈をぶちまけた

HYBEの主張によれば、ミン氏はNewJeansの大成功後、HYBEからADORの経営権を簒奪するための謀議を始めた。その証拠として、ミン氏とADORの経営陣との間の会話内容が公開された。

そのシナリオでは、まずミン氏がプットオプション(保有持分を売る権利)を行使して18%の持ち株を高く売り払ってイグジットする。その後、HYBEが保有しているADORの株を売るように誘導し、投資家を集めてADORの持分を安く買い入れ、ミン氏が代表に復帰するというものだった。ADOR経営陣が提示したこのシナリオに、ミン代表が「すごい」と答えた記録も残っている。

ミン代表は4月22日の時点で「ADORの経営権を奪取しようとしたことはない」「内部の問題を指摘する自分を追い払うためにHYBEが仕組んだフレーム」と反論。続いて25日には、2時間にわたる緊急記者会見を開催する。この会見が、若年層からの支持を得る「神の一手」となった。

YouTubeを通じて世界中に生放送された記者会見で、ミン代表は疲れ切った表情を隠せない素顔にカジュアルな服装で登場し、歯切れのいい悪口、感情を節制できない姿をときおり見せながら2時間にわたって思いの丈をぶちまけた。この様子に既成世代(韓国で多用される、社会の中核を担う中高年を指す世代区分)は眉をひそめたが、若者たちは熱狂した。