まず、議会レベルでの改革が必要だ。ロビー活動や特殊利益団体、マネーの影響力が弱まるように議会をチェンジしていかねばならない。だが、それだけでは不十分だ。

もうひとつのチェンジは、マスコミ改革である。政治家は、報道や公開討論の結果、世論がどう動いているかを注視している。メディアは、市民の問いかけに対して、真剣な議論の機会を提供し、政治家にプレッシャーを与えなくてはいけない。しかし、米国のメディアは、著名人の動向や醜聞といったセンセーショナリズムに執着しすぎている。

マスコミ改革のためには、視聴者である市民が、真剣な熟議の場を求めていることをメディアに感じさせる必要がある。たとえば、批判的な視点を持ち、理性的な討論の場を求める市民を生み出すよう、教育システムを変革するのだ。まず、大学が市民教育の機会を提供することが重要だと思う。

いずれにしろ、「共通善」を目指した討論の場を増やすことが必要だ。政府やメディア、高等教育機関の改革に加え、労働組合や社会運動団体、環境グループ、女性の権利団体など、市民社会レベルでの協調を進め、市民の声をくみ上げていく仕組みづくりが大切である。

なぜチリ鉱山事故に世界中が注目したか

私は講義や著作を通して、法や政治をめぐる大がかりで抽象的な問いかけを、具体的なヒューマンストーリーに置き換え、読者に理解してもらおうと心がけた。最近、起きた事例のなかで、共通する要素が多いのがチリの鉱山落盤事故だ。

10年8月にチリのサンホセ鉱山で起きた大規模な落盤事故では、地下634メートルに33人の作業員が閉じ込められ、70日後に全員が救出された。この事故が、なぜ世界の人々の心をわしづかみにしたのだろうか――。