「幹部でなければ年収200万円でよしとしなさい」
先の章において、防衛省としては、再就職先の給与と若年退職給付金を足し合わせて現職時代の75%の給付水準を目標としていると述べた。民間企業においても、55歳ごろに役職定年が設定され、その後給与が下がるケースもあれば、60歳を区切りに給与を下げるケースも多い。一般的には、60歳を過ぎると以前の7割程度の給与水準となっているようだ。
また自衛官以外の公務員でも、定年年齢が引き上げられつつあるものの、60歳に達した職員は原則として管理職から外す「役職定年制」の導入や、給与を60歳時点の7割水準とすることが決められている。
そんな中で、本当に自衛隊を去った自衛官が、現役時代の75%を確保することができるのであればまず悪くない話だ。しかし、これはあくまで「目標」であり、達成されていないケースも多い。
やはり先の章で、「再就職後の給与平均は尉官で400万円前後、准曹で300万円台」とも述べたが、これも「平均」にすぎない。東京付近の求人が平均給与を押し上げており、地方に行けば行くほど厳しい現状がある。
とりわけ東北や九州など、とくに求人が少ない地域では、尉官であっても200~250万円ほどの給与水準の地域もある。加えて求人の多くが、警備や輸送といった体力勝負の業務であることも事実だ。
元自衛官に対する民間企業の不満
なお自衛隊援護協会によると、退職自衛官の平均月収は2015年時点で22万2400円。一番多いのは15万円以上~21万円未満の44.3%であり、次に21万円以上~30万円未満で32.4%、30万円以上が13.5%となっているが、15万円未満も9.8%と決して少なくはない。
実際、地方で再就職を支援する立場に就いたことがある元自衛官は、「幹部でなければ『年収は200万円あればよしとしなさい』と指導していた」と振り返る。
現職の年収とのギャップの大きさや、現場仕事が多い求人に不満を漏らす者もいると言うが、「自衛官の持つスキルを考えれば、その年収が現実。それに我慢できなければ、自分で探すしかない」と話す。
民間はシビアだ。自衛隊生活の中で部下の隊員をまとめあげ、さまざまな活躍を見せたところで、それがイコール「民間企業で即戦力として認識されるスキル」にはならない。
また、確かに、求人の数はある。ただ企業としては、「『給料は落としたくない、休みはほしい』と希望する自衛官がいるが、給料を落としたくないならキツい仕事しかないし、休みがほしいなら給料は我慢しなければならない。自衛官はその意識が薄い」との本音も漏らす。