「忘れること」は重要な能力

「どうして忘れちゃったんだろう?」

さて、大切な仕事をうっかり忘れてしまったならば、誰でもそう思い、落ち込みます。

仕事のことでなくても、家族の誕生日などの大事な記念日や、何かの約束を忘れて、ひたすら謝罪するしかなかった、などという経験のある方は多いのではないでしょうか。

メモをとる? いやいや、メモを見ることすら忘れてしまったりして……。

忘れて焦った経験や怒られた記憶が忘れられずに残るからか、記憶にとって大切なことは「忘れないこと」だと思っている人が多いと思います。

実際、「加齢による物忘れ」に悩む人も多く、どうにかして「忘れない方法」を見つけたい、と思われる方が多いのもうなずけます。

しかし、認知科学の視点で見ると、「忘れること」は、とても重要な能力だともいえます。どういうことなのでしょうか?

「記憶の容量」はかなり小さい

「忘れること」が人間にとって大事な理由、それは、私たちが単純に覚えられる記憶の容量は、実はかなり小さいことがわかっているからです。

私は、教育にイノベーションを引き起こしたい、という思いから、「ABLE-Agents for Bridging Learning research and Educational practice」という取り組みをしています。

世界中から、認知科学を中心に様々な領域の研究者を招き、教育実践を日々行っている人々、社会変革の担い手となるべく強い思いを抱いている人々に橋渡しをするという取り組みです。

2012年に始め、コロナ禍によって最近はオンラインが中心の活動にもなっていますが、理論や知識だけでなく、経験をシェアすることによって新たな知の創造にもつながっていければ、と考えています。