社会問題に取り組むヒロインを描いた作品として先行するのは『おかえりモネ』(21年度前期)だ。東日本大震災のとき、何もできなかったことを悔やみ続けるヒロイン・モネ(清原果耶)が気象予報士を目指す。彼女の視座は災害から人々を守るという未来に向かっていたが、『おかえりモネ』はまだ序章でしかなかった。

そして2024年、ついに毅然と社会を変えるヒロイン・寅子の登場である。もちろん、職業にも生き方にも上下はないし、専業主婦だっていいし、結婚をしなくたっていい。何を選ぶかは個々の自由であって、どの朝ドラのヒロインもみんな素敵だ。

だが、朝ドラを見ている我々視聴者はもはや、この不自由過ぎる社会に限界を感じている。どれだけ我慢してもよくなる未来が見えないのだから、仕事と結婚を選んだり両立させたりで悩むだけでは済まないところに来ている。誰もが自分らしい夢を持ち、かなえるためにも社会を変える必要がある。

ナットクできないことに「なぜ?」(ドラマでは「はて?」)と異議を唱え、検証し、自分たちが社会という器に合わせ馴染むのではなく、社会の意識を変えていこうとする寅子こそ、待ちに待ったヒロインだったのだ。

当たり前とされているルールに「はて?」

寅子は、日本初の女性弁護士にして女性裁判官になった三淵嘉子がモデルである。ドラマは、戦後間もない昭和21年、憲法が改正され、第14条で「すべての国民は法のもとに平等である」とされたところからはじまった。そこから遡って、戦前へ。まだ男女に格差があり、女性は何かと理不尽な思いを被っている。やがて、昭和8年には法改正があり、女性も弁護士になれるようになる。

それまでは婚姻している女性は無能力者で、資産はすべて夫が管理するという法律という名の謎ルールがまかり通っていて、女性はそういうものだからと従っていた。が、寅子は「はて?」と当たり前とされているルールがなぜそうなのか突き詰めていく。

それを安心して見られるのは、すでに変革したという過去の事実に基づいているからだ。過去に戦って権利を勝ち取ってきた事実が、いまの私たちの希望になる。「はて?」と問うことによって、違うものの見方が生まれる。変化とはその行為の繰り返しからしか生まれない。

寅子の母・はるを演じている石田ゆり子が、初回放送前の会見に登壇したとき、「このドラマで法律を扱っていることが、ちょうどこの今の変わりつつある時代の日本にもぴったりくるような気がしませんか」と発言した。

ぴったりだと思うと主張するのではなく、気がしませんかと記者たちにやわらかに問いかけていたことも印象的な石田が言うように、いま、時代は変わりつつある。