銀行が時効を援用するケースは限られている。1990年代のバブル崩壊以降、けっこうな数の金融機関が淘汰されて他の金融機関に吸収された。その混乱の中で、淘汰された金融機関で預金をしていた預金者が、定期預金証書を紛失するなどのトラブルが起きた。預金者は「あの信用組合で預金をしていた」と主張するが、合併先の金融機関側はそれを確認できない。そこで時効を援用した例がいくつかある程度だ。

では、なぜ銀行が休眠口座の預金を自分のものにしているという誤解が広まったのか。それは会計上の債務と法律上の債務の考え方に違いがあるからだ。企業会計には、引き出されていない預金を債務として扱うのはおかしいという考え方がある。そのため会計上は資産として扱うことになり、銀行のものになったように見えてしまうのだ。放置した預金が銀行のものになっていないことは、実際に休眠口座を利用すればわかる。とくに手続きすることなく、普通に預金を引き出せるはずだ。

問題は、本人も休眠口座の存在を忘れている場合だろう。銀行に名前や生年月日を伝えて問い合わせれば、自分の口座があるかどうかは調べてもらえる。ただし、それには口座を作った支店の特定が必要になる。銀行の本部にはペイオフに備えて各支店の口座を名寄せするシステムが構築されているが、休眠口座の確認には活用できないという。休眠口座を確かめたければ結局、心当たりのある支店に問い合わせるしかない。

どこで口座を作ったのか思い出せなければ、口座は永遠に残り続けることになる。自分の口座を“永眠口座”にしたくなければ、引っ越しなどの人生の転機ごとに口座を整理して、利用していないものは解約したほうがいいだろう。

(構成=村上 敬 撮影=坂本道浩)
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