利益相反の開示がされていない

第二に、ガイドライン作成のプロセスがわかりにくくなっています。誰がこのガイドラインを作ったのかは別の場所で公開されているのですが、ガイドライン本文には名前がありません。

しかも公開された氏名一覧には、所属が一行で書かれているだけで、利益相反開示の項目が立てられていません(図表3)。

医療機関などの教授とか所長といった肩書がずらりと並んでいます。

一般に、「ガイドラインを作成したことで、自分の医療機関に来る人が増える」といった利害関係を代表として、営利非営利を問わずガイドラインの内容に関連する団体に所属するとか、金銭や物品・労働などの協力関係があるとか、株式保有があるといった関係は潜在的にガイドラインの内容に影響する可能性があるとみなされ、詳しく公表することが求められます。利益相反は必ずしも悪いこととは限らず、ガイドラインが信用できないとも限らないのですが、読む人の判断材料として重要な情報です。ところが今回の飲酒ガイドラインには利益相反のある人が関わっているかどうか、確かめにくくなっています。

「正月の餅」を規制すべきではない

第三に、そもそもの問題意識が偏っています。個人的にはこのガイドラインの導入部分にある何気ない一言が一番気になりました。

「お酒は、その伝統と文化が国民の生活に深く浸透している一方で、不適切な飲酒は健康障害等につながります。飲酒する習慣がない方等に対して無理に飲酒を勧めることは避けるべきであることにも留意してください。」

一見ごもっともな指摘ですが、わざわざ「伝統と文化」を持ち出す意味がわかりません。

常識的には「伝統と文化」のほうが優先です。「正月の餅」は多くの犠牲者を出していますが、それを理由に禁止するべきでしょうか。「相撲」とか「岸和田のだんじり祭り」といったものも同様です。

なのに、さも当然のことのように、「健康」と「伝統と文化」が対等かのように言い張っています。

無理に飲ませてはいけないという後半も唐突な印象があります。そんなことは健康を持ち出すまでもなく当たり前です。それなのに無理に禁酒させるのはいいのでしょうか?

そもそも、このガイドラインは前述の通り、具体的な基準値を示していないわけですから、飲みすぎないほうがよいという常識をなんとなく追認しているだけで、ガイドラインとしてはまったく無意味です。

つまり、このガイドラインは伝統も文化も個人の自由も実質的に無視しただけでなく、飲酒量の基準値を示しもしないのに、「専門家である医師の言うことに従え」と主張しているのです。

そんな世迷い言に付き合う暇な人がどこにいるのでしょうか。

日常生活をいちいち医者に指導してもらう必要はありません。みんな自力で情報を集めて、自分の価値観に照らしたうえで酒を飲んでいるのですから、いまさらガイドラインは要りません。

「それでも何らかの基準は欲しい」という方には、「日本人の食事摂取基準」がおすすめです。

こちらはちゃんと、わからないことはわからないと書いていますから。

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