脳の発達に影響を与えることで多様性をもたらす

研究者たちは現在も、病気や障害の原因となるすべての遺伝子を特定しようとしており、そのいくつかは見つかりましたが、その道のりは遥か遠くまで続いています。

私たちの行動特性はあまりに多様で、「この人は衝動的」「あの人は軽はずみではない」などと分類するのは難しいことから、人々のふるまいや行動、態度にはたくさんの遺伝子が関係しているに違いないとわかります。

これらの遺伝子は、ある特定の行動やふるまいをプログラミングしているのではありません。そうではなく、遺伝子は私たちの脳の形成・発達に影響を与えることで、行動に影響を与えているのです。

つまり、脳の構造と機能の個人差は極めて遺伝性が高く、すなわち私たちの脳は遺伝子の影響を強く受けていると言えます。

一方、私たちは脳の神経細胞(ニューロン)がどう“配線”されているかによって、どれくらい不安、苛立ち、報酬要求などを抱きやすくなるか、その傾向が決まります。脳は、注意力、記憶力、認知力、そして学習能力にも影響を及ぼします。

“空気を読む”といった複雑な作業や、概日がいじつリズム(体内時計)や睡眠といった基本的な生体内作用にも、脳は影響します。

遺伝子は脳の発達に影響を与えることで多様性をもたらし、生物としても、行動の仕方においても、私たちが一人ひとり違った存在になるための基礎を築いているのです。

遺伝子と環境の関係を理解し、親としての役割を最大限に果たす

私が取り組んでいるあるプロジェクトでは、なぜ一部の人はアルコール使用障害になるリスクが高いのか、その原因を解明しようと試みています。

研究の一環として、被験者の脳波を測定したところ、アルコール使用障害の人の脳には、そうでない人の脳と違いがあることがわかりました。多くの薬物を使用すれば、脳が変化することは容易に想像できるでしょうし、実際そうなのです。

しかし、最も興味深いのは、アルコール使用障害のある親を持つ子どもたちの多くには、アルコールを飲み始める前から脳波に親と同じような違いが見られるということです。これは、衝動性、報酬情報処理、認知制御に関わる脳の活動に影響を及ぼします。

また、このような脳の違いはアルコール使用障害だけでなく、ADHD(注意欠如・多動性障害)や行動障害、薬物問題を抱える子どもにも見られ、衝動性や自己抑制にも関連しています。

言い換えれば、一部の子どもは衝動的になりやすい脳を持ち、その結果、幼少時のADHDや行動障害から成長後の薬物使用問題まで、発達段階におけるさまざまな成育上のリスクを抱えることになるのです。

ダニエル・ディック(著)、竹内薫(監訳)『THE CHILD CODE 「遺伝が9割」そして、親にできること わが子の「特性」を見抜いて、伸ばす』(三笠書房)

このように、遺伝子は脳の形成・発達に独特な影響を及ぼし、それが行動傾向にも反映されます。

しかし、それは始まりにすぎません。遺伝子がその人の人生に重要な役割を果たすもう一つの大きな要因は、私たちの生まれつきの傾向に直接影響を与えるだけでなく、環境とも深く結びついていることです。

遺伝子は環境と結びつくことによって、複雑かつ間接的に私たちの行動に影響を与えるようになります。

遺伝子と環境の関係を理解すれば、私たちは親としての役割を最大限に果たすことができるのです。

本稿では子供の行動に遺伝子が与えている影響を紹介しましたが、本書ではこのほか遺伝子と環境の相関関係を解説しています。是非ご一読ください。

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