高齢者が家を借りにくい状況は続くだろう

住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者の実態調査【住宅ローン利用予定者調査(2023年10月調査)】」によれば、住宅取得動機は、20歳代・30歳代では「子どもや家族のため、家を持ちたい」「結婚、出産を機に家を持ちたい」が多いが、50歳代・60歳代では「老後の安心のため、家を持ちたい」が最多になる。

実際、高齢者が民間賃貸住宅を借りにくいことが問題となって、国もさまざまな政策に取り組んでいるが、家主からすれば賃借人が死亡した場合には、状況によっては告知義務が発生したり、多額の原状回復コストがかかるおそれがある。

さらに、賃貸借契約は相続の対象となるため、賃借人が死亡した場合には、厳密にはすべての相続手続きが完了するまでは、部屋の残置物にも一切手がつけられない。相続手続きの結果が相続放棄となれば、それまでの未払い家賃は家主の負担となる。また、内部統制とコンプライアンスを求められる企業の場合は相続完了前に残置物の処理を行うことは難しい。

こうした状況を解決するためには、借地借家法の改正や、民間賃貸住宅の借り上げ公営住宅を拡充するといった抜本的な政策が求められるが、そうした大改革は政治的にはすぐに実行できないため、おそらく高齢者が家を借りにくい状況は今後も続くだろう。

つえをついて歩く高齢者
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年金制度では高齢時の家賃は考慮されていない

だからこそ、家の購入理由に「老後の安心のため」という理由が出てくるのだ。

その背景には、年金制度もある。実は国民年金も厚生年金も日本の年金制度は、高齢時の家賃が考慮されていない。厚生労働省の「令和5年版わたしの年金とみんなの年金」という資料では、標準的な65歳夫婦の生活費が月額約24万円とされているうち、住居費はわずか約1.4万円となっている。

生活費の項目には、食費・光熱費・衣類・保険医療・通信交通費・教育教養娯楽・その他という項目があり、これらは平均でも大きな問題はないだろうが、住居費は持ち家と賃貸で大きく違い平均値を用いるのは適切ではない。住居費平均1.4万円というのは8割が持ち家、という前提なのだ。

また、老後の安心感というのは、経済合理性を追求した論理的な考え方によるものというよりも、もっと曖昧な心理的な側面が強い。そして、心理的な側面という観点では、「自分の家」という満足感や、壁にくぎを打ったり棚を作ったりできるといった気兼ねなく暮らせる感覚的な満足感も大きい。