なぜ、「わかっちゃいるけどやめられない」のか? 快楽を求めて依存物にハマればハマるほど不快度が増していく依存症という病。精神依存の治療を専門にする医師・中山秀紀さんの解説からその複雑な正体に迫る――。

※本稿は、中山秀紀『スマホ依存から脳を守る』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

ギャンブル依存症にかかっている人の脳は、ギャンブルのことで頭が占められている
写真=iStock.com/John Kevin
※写真はイメージです

依存症の二面性とは?

依存症の正体について、見ていきましょう。

そもそも依存症の根幹となる症状は、「精神依存」と呼ばれるものです。

「精神依存」とはその名の通り、「精神的に依存する」ことですが、これには「正の強化」「負の強化」という二つの側面があります。

アルコールや違法薬物などの物質依存症は脳内報酬系モデルから論じられるようになりましたが、ギャンブルやゲームなどの行為の依存症でも同様のことが起こります。

〈正の強化〉

まずは、「正の強化」すなわち「快楽を得られるから依存物を使用する」側面から見ていきましょう。

依存症の人が依存物を使用するのは、「快楽」を得るため、という前提条件があります。快楽を得たい。気持ちよくなりたい。そのために依存物を使用することを、「正の強化」といいます。

快楽の消失はガマンできても…

しかし、「正の強化」だけでは依存症を説明し尽くしたことにはなりません。

たとえば、依存症ではない普通に「ゲームが好きな子ども」も「快楽」を求めてゲームをしますし、依存症ではない普通に「酒好きな人」も「快楽」を求めて酒を飲みます。つまり、多くの日常的な局面において「快楽」がなくなるのを我慢することは、それほど難しいことではないのです(ただし違法薬物などによる強い快楽に関してはその限りではありません)。

もしも「快楽」がなくなるのが我慢できないのであれば、子どもたちは遊園地から帰ることができなくなってしまいます。遊園地は子どもたちにとって「快楽」をもたらし、遊園地から帰ることはその「快楽」が消失することを意味します。遊園地の閉園時間近くになると、小さい子どもが帰りたくないといって出口で泣き叫んでいるのを時々見かけますが、ある程度の年齢になると、もっと遊んでいたいと思っていても、(「快楽」がなくなることを我慢して)おとなしく帰ることができます。

この段階では、依存症は生じていません。依存症にはじつは、「正の強化」の他に、次に説明する「負の強化」が関わってくるのです。