身体に与える深刻なダメージ

睡眠時無呼吸症候群にかかる割合は10%以下の頻度であり、少ないように見えます。しかし、まだ見つかっていない、実際に検査をすれば睡眠時無呼吸症候群と診断される人は、もっとたくさんいると思います。

実際に、過去に報告されたデータを新たな基準で評価し直したところ、日本における睡眠時無呼吸症候群の患者数は2200万人(30~69歳人口の32.7%)、CPAP治療を必要とする重症患者は940万人(30~69歳人口の14.0%)と推計されました(11)

日本呼吸器学会の数値の数倍であり、睡眠時無呼吸症候群はレアではない、ありふれた病気であることがわかります。わたし自身も、睡眠時無呼吸症候群患者で、5年ほど前からCPAP治療を受けています。

会議中に居眠りなど日中の眠気がひどくなり、仕事の能率も下がっている気がして、睡眠ポリグラフ検査をしたところ、重症の睡眠時無呼吸症候群であることがわかりました。

CPAP治療によって眠気はかなり改善し、今ではなくてはならない治療になっています。ただ、毎晩つける面倒くささや出張や旅行の際に荷物が増えるなど、煩わしいのは否めません。

それでもCPAP治療を続けなければとわたしが思うのは、眠気対策だけではありません。これから話すような、睡眠時無呼吸症候群が脳や体に与える深刻なダメージを、できるだけ少なくしたいからにほかなりません。

CPAP治療を受ける人
写真=iStock.com/cherrybeans
※写真はイメージです

うつ病、認知症のリスクを上げる

わたしは会議中の居眠りで済みましたが、とくに自動車や電車を運転している人にとっては、日中の眠気や居眠りも安全面からも深刻な問題です。睡眠時無呼吸症候群は中高年の病気のように思えますが、子どもの睡眠時無呼吸症候群も1~4%はあると報告されており、症状としては落ち着きがない、朝起きられない、居眠りが多いなどが見られます。

やはり怖いのは、さまざまな病気のリスクです。

生活習慣病のリスクは間違いなく上がりますが、うつ病のリスクも高くなります。2019年の論文では、睡眠時無呼吸症候群のうち、うつ病の有病率は男性で2・7倍、女性で4・0倍、無呼吸のない人に比べて高いという結果でした(12)

実際の臨床でも、なかなか良くならないうつ病患者が、睡眠時無呼吸症候群であることが判明し、治療を行ったところ、うつ症状が改善するということがしばしばあります。認知症も、睡眠時無呼吸症候群を患っていると、リスクが上がります。

睡眠時無呼吸症候群と認知機能障害は、いずれも加齢とともに増加し、閉塞性睡眠時無呼吸がある場合には認知機能障害を生じやすくなります。

アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症など認知症にもいろいろありますが、どの認知症を見ても、睡眠時無呼吸症候群のない健康な人と比べて2.2倍~16.5倍の発症率でした(13)

かなり高い数字ですね。ほかにも、睡眠時無呼吸症候群の人は、新型コロナウイルス感染症に罹患りかんするリスクが約8倍と高く、呼吸不全を発症する重症化リスクは2倍にのぼるなど(14)、睡眠時無呼吸の人にとっていろいろな病気のリスクが高くなるデータは、枚挙に暇がありません。